恋したことにも、気づけない【爆豪勝己】 (ページ38)

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　　★★「ちょっと失礼」ページ38

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　昨晩のヴィラン襲撃によりエキスポの一般公開が延期された。残念がっていた生徒を元気付けるため、オールマイトはバーベキューを計画し、俺はクソ髪に無理矢理連れ出されてなぜかここにいる。

「肉うま！」
「しあわせ～」
「肉最高～！」
「あれ？Aちゃん？」
「あ゛？」

　肉の賞賛に紛れた声に反応して顔を上げれば、オールマイトに木箱を渡すAが目に入った。星麗(せいれい)の制服に鍔の広い帽子を被っている。俺は残りの肉を口の中に放り込み、空になった皿をアホ面に押しつけてAに近寄った。

「オイ」
「ごきげんよう。バーベキューをすると百に聞いて、お肉を差し入れにきましたの」
「あっそ。……足は？」
「すぐに治療していただいたのでこの通り」

　Aはその場で軽やかにターンしてみせた。「もう大丈夫です」と笑った後、俺の顔を見上げた。

「……んだよ」
「ちょっと失礼」

　白いワンピースのポケットからハンカチを取り出したAは、それを俺の口にあてた。

「口の端にタレが付いていますよ」
「……」

　まるで子供を相手にするように口の端を丁寧に拭う。抵抗せずに好きにさせていたら、背後から痛いほどの視線を感じた。驚きに固まってる奴にニヤニヤと笑う奴。ああ、ったく。うぜえな。

　俺はAの手を取って興味津々に眺めているやつらに背を向けた。

「あの、」
「いいから黙ってついてこい」

☆

「爆豪さん」

　どんどん離れていく俺の腕をAはくいっと引いた。

「いいんですか？バーベキューは」
「もともと興味ねえし」

　戻る意志はないと伝えるとAは引っ張る力を緩めた。

「爆豪さん、本日のご予定は？」
「別に」
「私(わたくし)、これから大学の見学に行こうと思っていますの」
「大学？」
「ええ。予定がないのならご一緒にいかがですか？」
「……まあ、別に。暇だしつき合ってやる」

☆

　見学に来た大学は、世界的な研究者が多く在籍する有名大学だった。研究室や工房を見学するAの顔つきはとても真剣なものだった。

「この大学でサポートアイテムの勉強ができるなんて……」

　羨ましがるようにAは呟いた。展示用のサポートアイテムに目を輝かせている。それを俺はただ静かに見つめていた。

　この時、この女が何を考えているかも知らずに。

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