恋したことにも、気づけない【爆豪勝己】 (ページ16)

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０６★★「寝てんのか」ページ16

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　百日紅(さるすべり) Aは必ずと言っていいほど俺より先に図書館に来ていた。星麗(せいれい)の授業は六限で終わるから当然か。

　学校の図書室や自習室では落ち着かないという女は、自習スペースの決まった場所に座り、物静かに読書か勉強をしている。その向かいに俺が座ると、目を合わせて背中がむず痒くなるような挨拶をする。まだ全然慣れない。

　しかし今日は違った。腕を枕にして机に伏せていた。微かな寝息と規則的に上下する肩は俺が近づいても乱れなかった。

(……寝てんのか)

　無防備に眠る女に手を伸ばす。顔にかかる髪を指で掬い上げると、黒に近い灰色の瞳は閉ざされていた。眠っているなんて珍しいと思ったが、俺はそれほど長くこの女と一緒に過ごしていない。

　今まではあったのだろうか。
　こんなふうに、無防備に──……

「ん、」
「……っ！？」

　長い睫毛が揺れて、小さく身じろぎしたことに驚き咄嗟に距離をとる。近くにあった椅子に肘が触れてしまい、音を立ててしまった。

「…………あら？」

　伏せていた顔を上げて眠気まなこを擦りながら、音がした方──俺がいる場所へと視線を向けた。そして俺の存在を確認したAは、恥ずかしそうに頬を赤らめた。

「あ……爆豪さん。ごきげんよう」
「……おぅ」
「申し訳ございません、ちょっと伏せていたら、そのまま眠ってしまっていたみたいでして」
「顔色、良くねぇぞ。体調悪ぃんだったら家に帰れ、阿呆が」
「あ、いえ。実は今日、個性強化の授業がありまして……少し疲れたと言いますか……」

　Aは腹部に両手をあてて前のめりになった。その数秒後、ぐぅ……っと間の抜けた音がした。小さいけれど、しっかり腹の音が耳に届いた。

「も、申し訳ございません……。はしたない姿を……」
「おい、鞄を持て」
「え？」
「なんか食いに行くぞ」
「いえ、あの……」
「俺が腹減ってんだ。つき合え」

　嘘ではない。昼食の後にヒーロー基礎学の実習と体育の授業。どちらもおもいっきり暴れてやったから、それなりに空腹は感じている。

「あ、待って下さい。私(わたくし)の鞄は自分で」
「いいから、それよりしっかり歩け」

　ぽかんとしたまま動こうとしないAの鞄を取って歩き出せば、焦ったように後ろを追いかけてきた。鞄を返すよう手が伸びてくるが、軽く躱して先を歩いた。

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