「上等だ──」 ページ36
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襲いかかる脳無に目を閉じて体を固くしたが、覚悟していた痛みは訪れなかった。
かわりに温かい何かに包まれて、すぐ近くで爆音が響いた。
直後、爆風が巻き起こる。
強く抱きしめられた体は、激しい風に吹き飛ばされることはなかった。
「オイ、クソ脳無。なに人の女に手ぇ出そうとしてんだ」
よく知る声と匂いに、Aは目を見開く。
ヒーローコスチュームを着た爆豪が、手のひらを脳無がいた方に向けていたのだ。
「勝己……君？」
「無事か？」
「お、おかげさまで」
正面から爆破を受けた脳無はホールの端へと吹っ飛んでいた。
勢いよく壁に食い込み低い音でうなっていたが、やがて動きが止まった。
「どうしここに？」
騒動を察知してから駆けつけたにしては早すぎる。
「……通報っつーか、犯行予告みたいなメールが送りつけられたンだよ。ここで何かあるって」
「それで勝己君が巡回に？」
「おう」
そのメールは本当についさっきで、警備も避難誘導もできないほどに短時間での決行だった。
『■■……ッ、■■■〜〜……』
気を失っていたかのように見えた脳無が動き出した。
「目を見ちゃダメ。体が金縛りみたいになるよ」
「……へぇ」
身を持って体験した情報を伝えれば、爆豪は口の端を上げた。
「上等だ──、くらえクソがァアアアア……っ！！！！」
「■■■■■■ーーーーっ！！」
吠えながら突進する脳無を迎え撃って、特大の爆破を浴びせた。
＊＊＊＊
脳無はあっさり破れた。
駆けつけた応援や、警察も呆気にとられるほどに。
「あの、ありがとうございます……」
警察が被害状況を確認する中、Aが庇った女優がお礼を言った。
「いえ、助けてくれたのは勝──ダイナマイトなので、お礼は彼に」
「はい。でも、あなたにも助けてもらったので……お名前、聞いてもいいですか？」
「えっと……轟──」
「Aっ！！」
自分の声に重ねて爆豪が呼んだ。
「怪我は？」
「ないよ。あー……でもちょっと寒いかも」
個性の影響である。
思い出した途端、寒気が襲ってきた。
「こっからだと俺のマンションのが近い。帰るぞ」
「え？ でも仕事……」
「直帰するって連絡入れた」
オラ、と手を引かれて車が止まっている場所まで誘導される。
「大丈夫か？」
「うん」
「うそつけ、震えてっぞ」
「……ありがとう」
体温を分けるように抱きしめる腕はとても温かかった。
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「恐くなくなるまで離れないで」→← 「もう……だめ、もたないっ！」
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作者名：瑪瑙
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/personal.php?t=agate0320
作成日時：2018年8月20日 0時
