比翼連理には程遠い３【轟焦凍】 (ページ9)

今日:32 hit、昨日:1 hit、合計:115,878 hit

最終話ページ9

＊ … * … ＊ … * …＊

前の学校に戻って数週間。
Aの生活スタイルも以前と同じ戻りつつあった。
休日は紅茶を飲みながら中庭テラスのガーデンテーブルで読書をする。

今日も変わらず読書にひたっていると──……。

「お嬢様」

「……またきたの？」

「ええ。今こちらの部屋に向かわれております」

使用人に声をかけられただけで要件がわかってしまったAは本を閉じる。
同時にノックが聞こえた。
どうぞと声をかければ扉が開かれそこには案の定、使用人に案内された轟がいた。

「今日は仮免補習じゃなかったの？」

「こっちに近い場所が会場だったから」

「ふぅん」

興味なさげに相槌を打つAの向かいに轟が腰掛けた。

「どうぞ。焦凍様。ごゆっくりなさってください」

使用人が轟の分のお茶とお菓子を用意し退出する。
婚約者の貴重な逢瀬を邪魔しないようにと変な気を回されるこの瞬間がAは苦手だった。

「……ふ、」

「……なに笑ってるのよ」

「いや。俺が来るのわかってたんだなって」

「……っ、」

気づかれない程度に肩を跳ね上がらせる。
バレないと思っていたのに、どうしてこういうところだけ鋭いのか。

「べ、別に！今日は和菓子が食べたい気分だったのよ！」

「まだ何も言ってねーぞ」

「うぐっ」

「俺が来るのを期待してたのか？」

「けほ、そ、そんなわけ、……けほ、」

自分から“用意周到に準備してました”と言わんばかりの言い訳を口にしてしまい焦った。
そしてその動揺を誤魔化すために飲んだ煎茶が喉に引っかかった。
これ以上なく滑稽だ。

「Aのそういう意地っ張りなところも好きだぞ」

「どうしてそう躊躇なく……！」

「本心だからな」

自分の来訪に合わせて用意された煎茶を飲みながら轟は言う。
この場に使用人がいなくてよかったと今は心から思う。

「比翼連理には程遠いな。俺たち」

「別にそこまで仲睦まじくなる必要はないんじゃない……？」

「なんだ。意味は知ってたのか」

「じゅ、授業で習ったの！」

プイッとそっぽを向けば、正面から小さく笑う気配を感じた。

「俺はAとそうありたいと思っている」

「〜〜〜〜っ！」

なんだかんだ言って自分はこの男を受け入れるんだろう。
少しずつ……、ほんの少しずつだが轟焦凍という人間に惹かれている自分がいる。

比翼連理には程遠いが、いつかは──……

了
＊ … * … ＊ … * …＊