比翼連理には程遠い２【轟焦凍】 (ページ42)

今日:4 hit、昨日:35 hit、合計:267,410 hit

◇◇ ページ42

＊ … * … ＊ … * …＊

(本当に綺麗に乾くんだなぁ……)

髪に指を通して乾燥前との感触を比べる。
水分を含んでいた髪があっという間に乾くのを体験したのはこれで２回目だ。

「便利でいいなぁ……」

「悪ぃ」

「えっ、何が？」

「俺はまたAの気に触ることを……」

「あ、違うの違うの。今のはただの感想。怒ってないよ」

後ろを振り向くとばつが悪そうな顔をした轟がいた。
なぜそんな顔を？と疑問を浮かべたが、以前に自分がとった態度を思い出して慌てて訂正した。
あの時は無個性であることが惨めに感じて自暴自棄になっていが、そんな感情も薄れてきた今は素直にすごいと思える。
皮肉や恨み言ではなく。

「昨日のパーティーで飯田くんから聞いたんだけどさ」

「ん？」

「無個性がいいんだって……。優秀な個性をそのまま次の世代に引き継ぐのに」

「……」

「焦凍君の小父さまもそう思って私たちの婚約を──」

「それはない」

思っていたことを口にすれば、轟は違うと言い切った。

「親父に聞いた。“なんでAと婚約させたんだ”って。そうしたらお前の親父さんに頼まれたんだって、アイツは言った」

「お父様に？」

「心配してたんだろ。お前の将来のこと。俺とお前の婚約という事実さえあればひとまずは上の連中から何も言われない」

「……あ」

確かに。
一族の恥だと疎ましい目で見ていたAを養女に出すか、どこか山奥の別荘に閉じ込めておけと話も出ていたくらいだ。
何かしらメリットがないと本当に実行に移していたかもしれない。
成人する前にどうにかしてしまいたいと。

「そっか……」

Aのことを思う父親の願いに、エンデヴァーが応えてくれたのだ。
轟を巻き込んでしまったことに関しては心苦しい限りだ。
しかしなるほど。
それを知ったからこそ、轟はAの婚約者を続けてくれると言ったわけだ。

「焦凍君は優しいね」

「？」

「でもいいんだよ。巻き込んでしまった原因である私がいうのはなんだけど。お父様たちが決めた婚約なんかに縛られなくていいんだよ」

「……」

「焦凍君の人生は焦凍君のものなんだから」

「──じゃあ、A」

「ん？」

「俺と結婚してくれ」

「────へ……？」

.