比翼連理には程遠い２【轟焦凍】 (ページ41)

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「風呂に入ってさっぱりしてこい」

気まずい朝食を終えた後にそんな言葉と一緒にAは風呂場に押し込められた。
そういえば昨日は車の中で寝てしまったので入浴をしていない。
気遣ってくれたのだろうか。

──いや、あれはただ「頭を冷やしてこい」と言っているようにも聞こえた。
会話を放棄して黙々と食事をするAをずっとチクチクと視線で責めていたのでおそらくそっちが正解だ。
お風呂に入りたいのは確かなので、言葉に甘えて体を清めることにした。

けれど他人──しかも初めて訪問したお宅の浴室で寛げるわけもなく、Aは適度な

「着替えは用意しておくからって……」

──言っていたが。
こういう場合、轟の姉の服が用意されていると思うだろう。
現にAが着替えさせてもらっていた服はそうだった。
けれど、どう見てもそこにあるのはメンズの服。

「……」

他に選択肢がないのでしたかなく、男物の服に袖を通した。
そして轟がいるであろう居間に入る。

「ねぇ、なんなのよこの服」

「ドレスで外に出たかったか？」

「……いえ、それは遠慮したいけど」

文句を言ったが、返ってきたのは趣旨が１８０度違う返事。
調子が狂うったらありゃしない。
しかしここで引き下がるわけにはいかない。
これはどう考えてもおかしい。
お世話になっている身ではあるが、主張はさせてもらいたい。

Aが訴えるように睨みつけるが、轟には何１つ伝わっている感じがしない。

「髪、濡れてるな」

「あ、そうそう。ドライヤーを借りたいって思ってたんだ」

「こっちきて、ここに座れ。髪、乾かしてやる」

「いや、あの……。自分でやるから」

「いいから」

また強引に手を引かれて座布団の上に座らされる。
その背後を陣取った轟は右手をAの肩に置いた。
まるで逃げるなとでもいうように。

(はぁ……わかりましたよ)

Aは抵抗を諦めた。

轟は左手で髪を梳くようにして指を滑らせる。
濡れていた感触はすぐにさらさらとした感触へと変わる。
ドライヤーとは違う不思議な感覚。
人の手とは、こんなにも気持ちの良いものなのか。

「乾いたぞ」

「ありがとう」

最後に髪を一つにまとめて背中に流す。
手が離れていくのを名残惜しいと感じるのはきっと気のせいだ。

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