◇◇ ページ36
＊ … * … ＊ … * …＊
「俺のいないところでなに泣いてんだよ」
「……なにそれ。私がどこで泣こうが焦凍君には──」
「行くぞ」
「へ？」
話している途中なのに脈絡もなく手を掴まれる。
手を引かれるがままに足を動かして向かうはベランダに出入りできる扉。
彼がこの部屋に入るために用いた場所である。
「え、ちょ、どこ行くの！？」
「急がねぇと捕まっちまう」
「捕まるって何！？」
説明を求めるも轟は答えずカーテンの隙間から外の様子を黙って見ているだけだった。
ここは２階。
下にあるのだろうか。
好奇心で覗き見ると屋敷で雇っているガードマンの集団がいた。
なぜか飯田も近づき、メガネの角度を調整しながら眺めていた。
「見回りの数が随分多いな。うまく侵入できなかったのか、轟君」
「塀を乗り越えるところを見られたらしい。ここに登るのに使った氷は溶かしたから場所までは割れていないようだが……。おそらく時間の問題だな」
「むむ……そうか。それは厄介だな」
「あの、２人とも……？」
この状況をわかっているような口調で会話をされても困る。
侵入とはまた穏やかではない単語も聞こえ、何から説明を求めて良いものか頭が痛い。
──と、頭を抱えていると突然の浮遊感。
目線の高さがぐんと上がったかと思うと、すぐそばに轟の顔があった。
「強行突破すっか」
「そうだな。あとのことは俺に任せてくれ」
「え！？ ちょっ、なんで横抱きに！？ っていうか、どういうこと！？」
「説明は後だ」
「後って！ そんなので納得できるわけ──ふが！？」
「黙っとけ、舌噛むぞ」
「んんーーーっ！？」
無理やり頭を胸に押し付けられて口を塞がれるという蛮行に抗議しようとしたのもつかの間、Aは轟とともに宙に舞っていた。
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作者名：瑪瑙 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/personal.php?t=agate0320
作成日時：2019年9月18日 22時
