比翼連理には程遠い２【轟焦凍】 (ページ25)

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幕間◆麗日お茶子◆ ページ25

麗日お茶子
＊ … * … ＊ … * …＊

Aを目的とした誘拐未遂事件は無事に収束し、日常が戻ってきた。

「今日はプリントを解いてもらう。教科書を見ても良いから全部回答するように」

(んー……)

麗日は授業で配られたプリントの問題に目を通したあと、斜め左後ろに視線を動かした。
その視線の先にいるのは、Ａ組の誰もが(といっても女子だけ)イケメンと評する少年、轟焦凍。
本来の場所よりひとつ後ろにずらした席にいる彼は、普通に問題を解いているように見えるが……。
隣の席のAが「あれ？んーっとこれは……」と独り言を呟くと急にそわそわしはじめるのだった。
その様子を見て麗日はくすりと笑う。

(聞いて欲しいんやろうなぁ……)

頼りにして欲しいという轟の心理が手に取るようにわかってしまう。
しかしAは「ああ、そうか」と自分で理解してプリントにシャープペンを走らせた。
さらさらと文字を書き込むAを見た轟は不服そうに自分の手元に視線を戻すのだった。

(轟君、わかりやすい……)

口元がにやけてしまう。
なんだろう。
今までヒーローに一直線だったから恋愛ごとに疎いというか、努力の方向性を間違っているというか。

(不器用なんやろなぁ……)

麗日はAを預かる経緯を先生が説明していた時のことを思い出した。
初めは興味なさそうにしていた轟が、預かる生徒が『イナサグループの令嬢』と判明した途端に態度を変えた。
「なぜだ」「どういうことだ」としつこく詳細を尋ねはじめたのだ。
あまりにも必死だったので知り合いかと聞けば、彼はすんなりと「婚約者だ」と答えた。

もちろんその場にいた全員が驚いた。
今の時代に婚約者というものが実際に存在することを？
──否。
轟をこんなにも冷静さを欠いた姿にさせる相手がいたことに。

「チャイムが鳴ったな。できてないやつは来週までにやっとけよ」

授業終了を知らせるチャイムにハッとなる。
観察に夢中でまだ全然埋まってない。

「A、昼飯──……」

「あ、ごめん。メールの返事をしなきゃいけないから先にこっちの用事済ませちゃう。私のことは気にしないで」

じゃ、と軽く手を上げてAは教室を出ていった。
行く先はお手洗いだ。
彼女は何やら奥の個室で誰かとメールのやりとりをしているらしい。
誘拐事件があった次の日くらいからだろうか。

「……」

轟はAが消えていった先を、ただ静かに見つめていた。

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