失われた雪の欠片１０ ページ17
.
「は、え──、A……？」
まるで記憶が戻っているかのようなAの言動に、爆豪は混乱していた。
(まさか……。そういや今、俺のこと名前で)
落ち着きを取り戻して状況を整理すれば、一つの引っ掛かりを覚えた。
記憶を失くしてからは『爆豪君』と呼んでいたが、今はたしかに『勝己君』と言った。
一つの確信を持って、胸に顔を押しつけるAを見下ろした。
「お前、記憶……戻ったのか」
「……ん」
鼻をすすりながらこくんと頷いた。
そうか、と呟き背中に手を回すと抱きつく手に力が篭った。
「……ぐず、ぅ……っ」
「泣くな。俺が悪かった」
顔を見せないように泣くAの頭を撫でる。
あやすように優しく。
泣き止ませようとやっているのに、涙を流し続けるAに困り果てる。
さらに困ったことに、このタイミングでAのスマホから着信が鳴った。
「スマホ、鳴ってるぞ」
「……」
爆豪が指摘するが首を横に振るだけ。
今の状態では出たくないという意思表示だ。
１分くらい経っても着信は鳴り止まない。
相手が誰かを確認するため、音を発し続けるブレザーのポケットに手を伸ばした。
取り出したスマホの着信画面には『お父さん』の文字。
「A、エンデヴァーだ」
「……出て」
代わりに出てほしいというAに、爆豪は仕方なく通話ボタンを押して耳にあてた。
こんな状況だが少し緊張した。
「はい、爆豪です。Aの代わりに──」
『爆豪君か！！ Aは！？』
「あの、記憶が戻って、今は出られなくて」
『そうか！！』
通話の向こうで『よかった……』と安堵の声が漏れた。
話を聞くに、ついさきほど犯人の個性を解除させることに成功したらしい。
不法な薬のせいで意識障害を起こしていたため、本人の意思での解除は無理と思われていたが、どうにか正気を取り戻させることができた。
他の被害者も回復しているようなので、確認の電話を寄越したというわけだ。
『落ち着いたら病院に行くように』と言付けを受け、通話を切った。
「もう、大丈夫なんだよ……な？」
「うん……」
Aは素直に頷いた。
「そうか」
よかった……と心の中で呟くと同時に立ちくらみがして、近くのソファーに崩れるように座った。
「か、勝己君っ？」
「……悪ぃ」
緊張から解き放たれた体と頭はすでに限界だった。
心配するAの声を耳にしながら、爆豪はゆっくりと目を閉じた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2418人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
パチ麻呂(プロフ) - 続編うれしいです、作者様もどうかお身体に気をつけてください！ゆっくりでもいいのでずっと待ってます(;_;) (2020年5月8日 0時) (
レス) id: 1f374d88ae (このIDを非表示/違反報告)
天音(プロフ) - 完結ですか？？この作品ものすごく好きだったので完結するのが悲しいです((泣)) (2020年3月5日 20時) (レス) id: 3aa825630d (このIDを非表示/違反報告)
鳳＊(プロフ) - えっ、、、イラスト美味すぎん、、、？作品内容もバリ良きだけど、イラスト書いている私からしてもこりゃ上手いわ……！ (2020年1月16日 17時) (レス) id: 63e109079e (このIDを非表示/違反報告)
紫陽花(プロフ) - お話は面白いし絵も素敵です。 (2019年10月24日 2時) (レス) id: 4b6f8d26fa (このIDを非表示/違反報告)
ツートップは神でしょ - すいません！轟さんバージョンの作品を見つけました！知らずに聞いてすいません・・・でもこのシリーズとっても大好きなのでこれからも頑張って下さい！！ (2019年5月8日 20時) (レス) id: 1be51e16a1 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：瑪瑙
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/personal.php?t=agate0320
作成日時：2018年11月14日 22時
