失われた雪の欠片８ ページ15
.
キッチンスペースで立ったまま、爆豪はただ静かにAを見つめていた。
そこでふと思たことがあり、口を開いた。
「……ていうかお前、個性で体温調節できるだろ」
「え？ なんで知って……あ、」
爆豪の質問に戸惑いを見せたが、すぐに納得の表情に変わった。
恋人になら本当の個性を話しているだろうと分析し、自分の中で解決したのだろう。
「担当のお医者さんがね、何があるかわからないからしばらくは個性は使うなって」
「……あっそ」
Aは爆豪を見上げて説明する。
こうやってまともに顔を見るのは何日ぶりだろうか。
今も少しだけ緊張している。
どう接すれば良いのか、何を話せば良いのか……。
「このマグカップ、可愛いね」
Aが冷たい手を温めるようにして持っているカップを眺めて呟く。
「私が使ってったやつかな？」
「……、」
にこにこしながらカップ持ち上げるAに、爆豪は「そうだ」とも「違う」とも答えられずにいた。
それは先日、Aにと思って購入したものだ。
最終的にAのものになる予定だが、まだ正式にプレゼントしていない。
この先、その機会があるかも分からない。
肯定してしまおうかと思ったが、一瞬の躊躇いがそのタイミングを逃してしまった。
「ねえ、どうして私は爆豪君のことを好きになったの？」
「……」
「ごめん、困らせたね。気にしないで」
返答に戸惑う爆豪に謝り、寂しそうに笑う。
２人の間に漂う空気がさらに気まずいものとなり、Aはそれを誤魔化すようにカップの中身を飲み干した。
どうして俺なんかを好きになったのか──……そんなの、
(……俺が知りたいくらいだわ)
それももう、本人の口から聞くことはないのだろうか。
「……ぁ、あれ？」
突然、Aの体がふらついた。
反射的に爆豪は手を伸ばしてその体を支えた。
「おい、大丈夫か？」
「……」
「A？」
支えた腕を通して、ピクッとAの体が震えたのが伝わってきた。
そういえば、記憶を失ってから初めて本人に向かって名前を呼んだな。
そんな思考が一瞬、頭によぎったが今はそれどころじゃない。
「おい、どうした！？」
「……」
「A！」
もう一度呼びかけたがAの反応はない。
自分で体のバランスが取れないのか、倒れるように力なく爆豪に寄りかかってきた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2417人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
パチ麻呂(プロフ) - 続編うれしいです、作者様もどうかお身体に気をつけてください！ゆっくりでもいいのでずっと待ってます(;_;) (2020年5月8日 0時) (
レス) id: 1f374d88ae (このIDを非表示/違反報告)
天音(プロフ) - 完結ですか？？この作品ものすごく好きだったので完結するのが悲しいです((泣)) (2020年3月5日 20時) (レス) id: 3aa825630d (このIDを非表示/違反報告)
鳳＊(プロフ) - えっ、、、イラスト美味すぎん、、、？作品内容もバリ良きだけど、イラスト書いている私からしてもこりゃ上手いわ……！ (2020年1月16日 17時) (レス) id: 63e109079e (このIDを非表示/違反報告)
紫陽花(プロフ) - お話は面白いし絵も素敵です。 (2019年10月24日 2時) (レス) id: 4b6f8d26fa (このIDを非表示/違反報告)
ツートップは神でしょ - すいません！轟さんバージョンの作品を見つけました！知らずに聞いてすいません・・・でもこのシリーズとっても大好きなのでこれからも頑張って下さい！！ (2019年5月8日 20時) (レス) id: 1be51e16a1 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：瑪瑙
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/personal.php?t=agate0320
作成日時：2018年11月14日 22時
