泣きてーのはこっちだわ ページ35
.
じわりと溢れ出る涙で視界が揺らぐ。
「なに泣いてんだよ。泣きてーのはこっちだわ」
その言葉と同時に背中に両手が添えられて、抱き寄せられた。
強く、強く。
久々に感じる甘い香りがAの体を包んだ。
「勝己……君？」
Ａ組の生徒がいる前でこんなふうに抱きしめられるのは初めてで、Aは戸惑いながら爆豪の名を呼んだ。
「許してくれるの？」
「あ？ 許すも何も怒らせたのはこっちだろ？」
「だって……私、酷いこと言ったのに。酷いこと……したのに」
Aは頬に手を伸ばして、治りかけの小さな火傷を親指の腹で撫でる。
爆豪は目を閉じて指の感触に身を委ねた。
「リカバリーガールに治療してもらわなかったの？」
背中にあった片方の手がAの後頭部に移動した。
肩に顔を押しつけるように抱き寄せられ、爆豪もまたAの肩に顔を押しつけ
た。
「傷だろうとなんだろうと、お前から与えられたモンは全部受け止めてやるよ」
吐息まじりに耳元で囁かれてピクッと体が反応する。
爆豪の口から出てくるなんて信じられないセリフに、顔がこれ以上なく熱くなった。
「A」
「……あ、ぅ……」
「A……」
追い討ちをかけるように爆豪はAの名前を何度も口にする。
大事なものを取り戻したかのように。
優しく、甘く囁きかける。
ぎゅっと抱きしめられるこの感覚が愛おしい。
皆のおかげだ……──と、彼女らの顔が頭に浮かんだところで、ここが廊下でかつ人前だということを思い出した。
「あの……勝己君。そろそろ……」
「ウルセー……色々と限界なんだよ」
「ぅえ！？」
もっとお前を感じさせろ──と、誰にも聞こえないような小さな声で囁かれる。
息がかかる首筋がくすぐったい。
「も、もう良いでしょっ？」
「……」
恥ずかしくなって身を捩るが、抱きしめる腕がそれを許さない。
爆豪は逃がすものかと、さらにその力を強くした。
恐る恐る周囲を見渡すと、Ａ組とＩ組の生徒から様々な感情を帯びた好奇の目が、２人に寄せられていた。
呆然としているものもいれば、顔を赤らめながら見守るものもいた。
ついには次に講堂を使う予定のＢ組までやってきて、この光景に不思議な目を向けていた。
(な、なんでこんな……)
まるで公開処刑だ。
そうか、爆豪はこれが嫌だったのか……。
と、今更ながら以前の彼の心情を理解できた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1965人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
華 - 作者さまが、書かれている小説はとても面白くキュンキュンさせてもらってます！イラストも完璧で！ところで、雪と炎のシンフォニー6のパスワード教えてもらえないでしょうか？？ (2018年8月24日 17時) (
レス) id: 8f943258c6 (このIDを非表示/違反報告)
蘭羅(プロフ) - いつも読ませていただいてます。作者さまが書いてくださってる爆豪くんがほんとに私の理想通りでキュンキュンが止まりません！(>_<)イラストも素敵です！これからも作品を楽しみにしています(^-^) (2018年8月13日 1時) (レス) id: 8f11b721e2 (このIDを非表示/違反報告)
瑠嘉#雅 - 続編楽しみにしてます。いつ投稿できそうですか？ (2018年8月9日 23時) (レス) id: bd7f78cad2 (このIDを非表示/違反報告)
四宮 - 回答して下さりありがとうございます！プロヒーロー編の先行公開も読ませていただきました！すっごく面白かったです！楽しみに待ってますね！ (2018年8月6日 23時) (レス) id: deef7ae511 (このIDを非表示/違反報告)
四宮 - いつも楽しく読ませていただいてます！あの、質問なんですけど、その6のプロヒーロー編って、書いていただけるんですよね？気になっちゃって笑すみません… (2018年8月6日 13時) (レス) id: 329a268fec (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：瑪瑙 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/personal.php?t=agate0320
作成日時：2018年7月7日 21時
