ユーフォリック・シンフォニー【爆豪勝己】 (ページ19)

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　　　「俺はそれが許せない」ページ19

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手の中にあったスマホが消えたことに気を取られ、Aは自分にまっすぐ突き進んでくる何か(・・)への反応が遅れた。

「……っ！？」

反射的に体をそらして逃げたが避けきれず、自分に向かって切りつけてきたナイフがわずかに腕を掠めた。

「──くっ」

よろめきながらも間合いを取って襲撃者に相対すると、こちらにナイフを向けた男が無表情で立っていた。
あれで切られたのか──と自覚したと同時に左腕に痛みが走った。

「ママ！」
「Aママ！」
「来ちゃダメ！」

駆け寄ろうとする子供たちを言葉で制した。

「逃げて」
「ママ……」
「うぅ……っ」
「いいから逃げなさいっ！」

勝凍はすがるように足を踏み出すが、Aがきつく睨むとその場で立ち止まった。
火月は目に涙をためて今にも泣き出しそうにしている。
できることなら２人を抱えて逃げたいが、子供たちと自分の間には男がいる。
どうするべきか、Aは考えた。

「──ハッ、ガキなんていやがったのか……。喚かれると厄介だ──……な、氷っ！？」
「そこで警察が来るのを待ってなさい」

兄のように足先から氷を放ち、背を向けた隙を狙って男を拘束した。
氷が溶けるまでは充分に時間はある。
子供たちを連れて逃げて警察に連絡を──と、頭の中で優先順位を立てながらスマホを拾いに行こうとした時、男を拘束していた氷が急激に溶け出した。

「え！？」

氷越しに見える男の服が赤く発光していることに気づく。

「──サポートアイテム！？」
「お前の個性の対策くらいしてるに決まってるだろ！！」
「……、させない」

ならば根気勝負だ。
自分の体温がどうにかなろうとも溶けた氷の上から何度でも凍らせてやる。

しかし思うように体に力が入らず、Aは地面に膝をついた。

「何……これ」
「やっと効いてきたか」

無表情だった男が笑った。

「麻痺性の毒を塗っておいたのさ。実績はなくともヒーローの資格を持ってんだろ？」
「どうしてこんなことを……」
「俺はヒーローになりたかった。でも俺の個性では絶対に無理だ」

男を覆っていた氷が形を崩し蒸発していく。

「お前たちはヒーローになれる資格を持っているのに、持っているだけ(・・・・・・・)だァ？」

嘲るように笑っていた男の表情から笑みが消えた。
そして殺意のこもった眼差しでAを見た。

「俺はそれが許せない」

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