ヒロイック・シンフォニー【Secret】 (ページ39)

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　　　「ありえなくもないけど……」ページ39

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蕎麦を堪能した焦凍は仕事に戻っていった。
残る２人は都心に移動して、オシャレなカフェでスイーツを楽しんていた。

「はぁ……」
「どうしたのよ。なに？体重増えた？」
「就職が決まらない」
「あー……そっちね……」

憂鬱な表情を浮かべるAに、麗歌(れいか)は何も言葉をかけれなかった。

実はまだ就職先が決まっていない。
有名どころのヒーロー事務所を片っ端から受けたが惨敗。

「経理のことだからやっぱり経験のある人の方がいいのかな……？」
「雄大生なのにそれはないでしょ。エンデヴァーの娘を預かるのは気が引ける……とか？」
「ありえなくもないけど……」

長いスプーンでパフェをつつきながら、難しい顔をする。
狙い所のベストジーニストの事務所に関しては新卒の募集をしていなかった。

爆豪に愚痴っても「ふ～……ん、そうか」と興味なさそうに答える。
こっちは真剣に悩んでいるというのに。

「あ、そろそろ稽古の時間だ」

麗歌が腕時計を確認して呟いた。

「ねぇA、見学に来ない？」
「え、良いの？」
「うん、私のショートの演じっぷりを見ててよ」

そう言ってウィンクする動作はとても様になっていた。
元気づけようとしてくれている友人の言葉に甘えて、Aは同行することにした。

＊＊＊＊

案内されたのは、麗歌が所属している劇団が練習に使っている多目的ホール。
今日は衣装はつけずに演技指導を受けていた。

その様子を壁を背にして眺めていると、男が近寄ってきた。

「君、見学？」
「はい」
「演劇に興味があるの？それともお目当ての俳優がいたりする？」

俺とか……、なんて冗談めかす彼に愛想笑いを浮かべて応えた。
なんか見たことがあると思ったら、爆豪役の役者だった。

ここまで雰囲気の違う人間を起用するなんて、彼がよっぽどの演技派か名前を売るためだけの話題作りなのかどちらかだ。

「よかったら、名前教えてよ」
「あの……」

少し迷惑そうにして、この場をどう切り抜けようか考えた。
その時──……

「な、なに！？あれは……っ」

ヒロイン役の女優が２階の観客席を指差した。
夕陽が沈みかけて薄暗い窓の向こうに揺らめく影。

夜の空に木が揺れているだけだと思ったが動きが不自然だ。
何かがいる──……

窓に張り付くように中を覗いていた“それ”は、厚いガラスを割って侵入してきた。

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