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7 夜ふかしトーク ページ7

「眠れぬ…」

またか、とため息をつくのはこれで何度目だろう。

仕方が無いから外の空気でも吸おうと外に出る。

寝巻きのままクッションを抱き、建物にもたれ掛かる諜報員がそこには居た。

「何をして居る?」

「ごめんなさい、眠く、ないんです」

諜報員は小さく咳をして返した。

今は、此奴が話すときに目を合わせていないことで叱る気にはならない。

「止まらないのか、咳」

小さく頷き諜報員は涙目で咳き込むが、数秒経つと落ち着き静かになっていた。

真逆気絶したのか、と隣を見ると、持っていたクッションを口元に押しあてる姿が目に入る。

「離せ」

軽く引っ張っただけであっさりとクッションを奪い取ることが出来た。

僕の力が強いことの象徴だということは無く、ただ、全身に力が入らなくなる程に目の前の此奴が弱っている居るということが分かるだけだ。

さっき眠ったように静かになったのは落ち着いたのではなく、発作を無理矢理に押さえつけていたのだ、と今更気がつく。

咳もさっきまで抑えていた分、今になって更に酷くなったようだ。

こんな寒いところでは治まる発作も治まらない。

「平気か?おい阿呆、抑えるな」

諜報員を抱えるようにしてビルに戻り、温かい自室のソファに座らせる。

止まない咳に一つ舌打ちをする諜報員。

「舌打ちをするな」

舌打ちまでする余裕が出て来たな、と呆れながらも僕の焦りは消えていた。

霧状の薬を飲ませたり、上着を着せたり、背中を擦ったりといろいろやっているうちに今度こそ落ち着いてきたようだ。

「落ち着いたか」

「はい」

「飲め」

無表情で温かい飲み物を机へ置くが、諜報員はにっこり笑って礼を言った。

「声を枯らすな。聞き苦しい」

「ごめんなさい」

だいぶ理不尽だと分かっている。違う、叱りたい訳では無いのだ。

「何故体調が優れぬ時に逃げるのだ。お前なら迷惑を掛けたくないと言うだろうな。気持ちは分かるが、もっと迷惑を掛ける事にもなるのだぞ」

しかし、説教の言葉は次から次へと口から滑り落ちてくる。

「まあそんな事は良いが、更に自分を苦しめるなと言っている。変な所で意地を張らず、素直に体調不良だと報告すれば良いだけの話だろう」

「すみません、気を付けます。」

謝罪が欲しい訳でも無い。

「声は大切にしろ。僕も肺病で昔から咳が出る。人のことは言えないが、その、お前の声は…、綺麗な故」

「有り難う御座います」

少し驚くも、いつものように笑う諜報員。

.→←6 少しの贅沢


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作者名:るるる様。 x他1人 | 作成日時:2023年5月7日 11時

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