【127】深い口付けは、彼の名前を呼んだあとで ページ27
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櫻井「…………ショウくん、でもいいけど(笑)」
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自嘲する様に笑う彼をみて、わたしは意味が解らなくてパチパチと瞬きをする。
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A(え……？)
A(なに、どういう意味……？)
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唇が離れた距離と時間に比例して、段々頭がクリアになってくる。
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A(えぇと……)
A(この人もしかして)
A(もしかして、わたしが小津さんの意向に反して)
A(相葉さんの為に動いたの、気にしてると思ってる……？)
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でもって。
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A(…………まだ小津さんの名前が『正』って、気付いてないのか)
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クリアになった頭では、色々な事が巡る。
小津さんはそもそも「ショウ」じゃないし。
(『正』って書くけど)
それに、職場恋愛していたから……名前なんて呼ばせてくれなかった。
小津さんは「俺は大丈夫(笑)」と言って、わたしの事を、二人の時は「A」……と、名前で呼んでいたけれど─────「うっかり職場で名前で呼んでしまうといけないから」。
そう言われて、わたしは小津さんの事を「小津さん」としか呼んだ事がなかった。
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A(小津さんが転職してからも、付き合ってたけど)
A(結局そのままになっちゃってたんだよね……)
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言われて納得したのも本当だったけれど、それが寂しかったのも本当。
そんな事、すっかり忘れていた。
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櫻井「ん？」
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目の前のアイドルは─────何を勘違いしてんだか知らないけれど。
仕事の後にも、同じ職場の人間に気を遣って、そんな事を言う優しい人だ。
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A(ばか……)
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小津さんの事なんて、とっくに吹っ切れてんのに。
なのに、彼の目にはわたしはまだ引きずっているように見えているのだろうか。
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A「…………翔、くん？」
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戸惑いながら、おずおずと。
シンプルで綺麗な響きのその名前を呼ぶと、彼がちゅ、と。
ふっくらとしたあの柔らかな唇を、わたしに与えてくれる。
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A「翔くん」
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今度ははっきりと。
彼の背中に腕を回し、服を握ってそう呼ぶと。
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櫻井「A─────…」
A「翔く、……っ」
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彼はわたしの名前を呼んで、もっと深く口付けてくれて。
わたしも、彼の名前を呼んだ。
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─────彼は、わたしが小津さんの名前を呼んでいると思っているだろうけど。
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作者名：１２（とうふ）
| 作成日時：2014年1月31日 5時
