【98】唇を押し付けるのは、背中を押し付けたあとで ※ ページ48
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A「だから……あのヒトには参ってたじゃないですか」
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すれ違うスタッフに「お疲れさまでーす」なんて行ったり頭を下げたりしながら、わたし達は控室へと向かう。
その間の彼の表情は完璧なアイドルスマイルだ。
─────だけど……
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A「福山雅治が結婚できないのはなんでだと思います？ 男前なだけじゃダメなんですよ。
ほら、あの人潔癖症じゃないですか」
櫻井「……。」
A「でもね、潔癖症同士だったら上手くいく可能性もある訳でしょ。 だから……」
櫻井「だから『自分はだらしないのに口だけ出してくる男』にした？」
A「ええ」
櫻井「二言目には『ウチの実家はこうしてたけどなー』って言う男にした？」
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その声は恐ろしく低く。
わたしは言葉を選びながら、「アンタの為」だという事をアピールした。
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A「…………自覚ないのかもしれませんけど、それは本当に言ってますよ」
櫻井「ふーん……」←あ、気を付けようってちょっと思った
A「まぁでも、ほら。あれですよ。 お料理や片付けが得意な人っていっぱいいますけど、実家を引き合いに出す男っていうのは、そういう人だって嫌でしょう」
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丁度楽屋について、ノックをして。
中の返事を待ってから、ドアを開けて「どうぞ」と中に入る様に促した……
─────んだ、けれど。
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櫻井「うん、その話はしてない」
A「え？…………きゃ、……っ」
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ザワついたテレビ局の廊下の中、はっきりと。
明瞭にその低い声が空気を震わせ、わたしの鼓膜を震わせ伝わったのかと思うと。
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グイ、と。
彼が控室と廊下の境界線を越えた辺りで、強く私の腕を引き─────わたしは慣性に従って控室に引き込まれた。
─────そして。
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櫻井「ぜんぶ、仕事だから出来るんでしょ？」
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そう言って、扉が閉まって廊下との空間を切り離した途端。
わたしに。
わたしに─────キスをした。
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A「や……っ、」
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扉に背中を押し付けられて、唇に唇が押し付けられる。
柔らかなその唇の感触を意識するよりも先に、舌が滑りこんできて舌を舐められる。
抵抗しようとしたわたしの手を、思った以上に大きな手が上から握り込むと。
そのまま。
そのまま、わたし達はキスに耽った。
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作者名：１２（とうふ）
| 作成日時：2013年11月29日 2時
