【78】お湯割りの焼酎は、インスタント麺のあとで ページ28
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A「…………。」
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眼鏡をかけて、仕事をしている彼は─────中々サマになる。
ちゅるり、とインスタントのおうどんをすすりながら見ていると、不意にタヌキが顔を上げて視線が合った。
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櫻井「五宮さんも飲む？」
A「……いえ」
櫻井「明日休みだけど」
A「……………………じゃあ、ちょっとだけ」
櫻井「はい、どーぞ」
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お湯で割られた焼酎は、すっかり温くなっていた。
それでも、アルコールが内側からわたしの体温を上げる。
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A(どうかしてる)
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おかしい。
だって今日は本当は仕事だった筈なのに。
なのに、わたしは手ぇ抜いた朝ごはん用意して送っていっただけで─────その後は一日ここで寝ていて。
そんでもって、タヌキの晩酌に付き合ってこうして座ってるなんて。
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A(おかしい)
A(…………どう考えたって、変だ)
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そんな事を考えながら、ひとつ大きく息を吸うと、イマイチ好きになれない焼酎の香りが鼻腔を抜けた。
その瞬間、ほわん、とアルコールに包まれたその時。
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櫻井「…………んな難しい顔して、何考えてんの？(笑)」
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モニタから視線を外す事もなく。
口の端だけ上げて、タヌキが笑った。
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櫻井「あ、もしかしてあれ？」
A「あれって、何ですか」
櫻井「最後の恋は〜…ってやつ」
A「最後の……恋？」
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なにそれ。
そんな意味を含んで尋ね返すと、タヌキが「嘘でしょ？」と顔を上げた。
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櫻井「こないだ言ってたよ。『最後の恋は、いつどうやって始まるのー』って」
A「は……？」
櫻井「『小津さんだと思ってたのにー』って(笑)」
A「んな……っ？！」
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このタイミングでその名前が出てくると思わなくて。
変に吸い込んだ空気とアルコールで、むせた。
そんなわたしをよそに「あーあー、大丈夫？」と、思ってんのか思ってないのか解らない様な適当な感じでタヌキは続ける。
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櫻井「小津さんとは？ 前の会社で一緒だったんだっけ？」
A「……です、けど…………」
櫻井「ふーん。長かったの？」
A「…………それなりに」
櫻井「へーぇ」
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おかしい。
やっぱり、おかしい。
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A(だって)
A(だってわたし、何でこんな話……)
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何故だか解らないけれど、わたしは誘導されるみたいに、タヌキに小津さんとの事を話していた。
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作者名：１２（とうふ）
| 作成日時：2013年11月29日 2時
