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依頼のためにロシア内でも飛び回った数ヶ月。
時は誰を待つことなくあっという間に過ぎていった。
「……寒い」
かじかんだ指先を擦りあわせて息を吹きかける。それでも寒さで失った感覚は戻ってこない。
おかげさまでカメラが持てない。
今日はロシアの西端にある冬宮殿に来ている。
近くにホテルをとり、そこから歩いてきたのがいけなかった。
迫力あるこの建物はかつてロシア皇帝の冬の王宮として建設されたもので、
緑と色の石材が不思議な印象を与える。
「ダメだ……。これじゃあ、仕事にならない。
まずはどこかで温まってからにしよう」
再び歩き始めて
近くの開店ばかりの小ぢんまりした飲食店に入る。
「やあ。あたたかいココアを貰っていいかな?」
席につき店員に声をかける。
かしこまりました、と去っていく店員の後ろ姿から棚の上の液晶テレビに目を移す。
『昨夜の中国大会男子ショートプログラムは現時点、日本の勝生勇利が1位。
それに続き、2位ロシアのポポーヴィッチ。3位アメリカのレオ・デ・ラ・イグレシア。
勝生選手は今シーズン我が国ロシアのリビングレジェンド、ヴィクトル・ナキフォロフをコーチに迎え昨夜も順調の滑りを見せました』
ナレーションと一緒に勝生勇利とヴィクトルの映像が流れる。
勇利を抱きしめたヴィクトルは心底嬉しそうだった。
……ヴィクトルはそんな顔も他人に見せるようになったんだね。ボクは何となく複雑の気持ちになった。
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作者名:砂雅 | 作成日時:2016年12月18日 15時