ほんわか系病弱女の猟犬奮闘記録 2【文豪ストレイドッグス】

もっぴいさんリクエスト〈円地、体調を崩す 3〉 ページ10

条野side




「食べ物を取ってくるだけです、直ぐに戻りますから」

『やぁだー……』

「何か食べて薬を飲まないと辛いのは貴女ですよ」

『じょーのさんいてくれないとだめー…』


前言撤回。
この人、矢張り意識ははっきりしていない。
これは体調が治れば忘れているやつだ。

幼げに甘えてくる姿は愛くるしいものだが、流石にこのまま云うとおりにして悪化したとあっては本末転倒だ。どうにかして取りに行かないといけない。
ベッドの縁に腰掛け、タオルで軽く汗を拭くと肌触りの良いタオルが気に入ったのかふにゃりと笑った。


『おかあさまみたいですねぇ』

「治ったら覚えておいてくださいね」


甲斐甲斐しく世話を焼くのが悪いのか。だから意識されないのか。
然し目を離せば直ぐに薬を飲むのを忘れるわ、怪我をするわと何かしらがあるんだ。誰かが気を付けていなければいけないだろう。

鐡腸さん程マイペースだったなら良かったのだろうか。いや、それはそれで猟犬部隊が滅ぶ気がする。矢張りこのままがいいのだろうか。

溜息を吐き出せば、懐かしいです、と少し寂しそうな声色で呟かれる。
何が懐かしいのか。聞きたいが、無闇に首を突っ込むのは駄目だろう。そう思い無言を貫いていると、ぽとりと落とされた。


『みなさん、げんきですかね』


そう云った声は微かに震えていて、確かに孤独を訴えていた。
自分達は、御福さんを猟犬へと交渉に行った時しか御両親には会ったことがない。ただ、その時に既にわかった。あの人達は、この人を心の底から愛していると。


『どうして、みなさんいないんですか』


家族を思い出せば、途端に寂しくなったのか、泣きそうな声を隠すこと無く問いかけてくる。
否、既に泣いているのかもしれない。

指通りの良い髪に手を伸ばして撫でると、小さな嗚咽が聞こえ始める。
二十歳とはいえ、家族の元にいた十五年間。ずっと傍に居続けてくれた存在が居ないともなれば泣きたくなるだろう。それに、風邪の時は精神が脆くなり人肌が恋しくなるとも云う。

傍に居るのに、居ないものと扱われたように思えて、心の中にドス黒いものが渦巻いているような気がした。


「御福さん」


頬に手を当てれば、じわりと温かさが伝わってくる。
体調も大切だが、このままリビングへ道具を取りに行ってしまえばその間に何処かに行ってしまうような気がして。





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