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そう。
あれは、バイトを始めてすぐのことだった。
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桜舞い散るその季節。
満開になるその風景に、胸が何とも言えない悲鳴をあげる。
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A(こんな)
A(こんな風に思うのは、日本人だからなのかな……)
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そうだとしたら、わたしは日本人に生まれて本当によかったな、って思う。
そんな事考えながら、ガラス越しに外を見ていると─────あの人が。
櫻井センセイが、来店したのだ。
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相葉「いらっしゃいませー♪」
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相葉さんはすてきな笑顔と、いつもよりすこし高い声でそう言ってセンセイを迎えて。
わたしも慌てて続いて「いらっしゃいませ！」と声を出した。
一瞬、挨拶が遅れてしまったわたしは「しまった！」って思ったんだけど。
だけど─────店長の相葉さんがわたしを咎める事はなくて。
やさしく笑って「Aちゃんのハジメテの、お客さんだね♥」って。
そう言ってくれた。
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A(ハジ、メテ……)
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そうか。
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A(そうか)
A(そうだ)
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このドキドキは、初めてのお客さんを迎えたわたしの初仕事になるからだ。
最初は、そう思った。
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櫻井「…………ブレンド」
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お冷とおしぼりを持って、テーブルに迎い。
改めて「いらっしゃいませ」って言おうとしたわたしに、低い低い声でそう一言。
センセイはわたしにそう言った。
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A「え……っ、？！」
櫻井「(笑) ブレンド、お願いね」
A「は、はい……っ！」
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ずっきゅーん！て、胸をいるその低い声。
それも、想定してなかったタイミングで発せられたその声。
それに驚いた私は。
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A(ブレンド……)
A(あ！週替わりのブレンドコーヒーだ！)
A(控えなきゃ……)
A(え、どうしよう)
A(手がふさがってる……)
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手に持ってるお冷とおしぼりを出したらいい。
なのに。
なのに、わたしはテンパっちゃって。
固まってしまって。
なんとなくそれに気が付いてる、ハジメテのお客様の前でアワアワしてたら、相葉さんが長いコンパスでサッときてくれて。
わたしの持つお盆から、ひょいっと。
お冷とおしぼりを取り上げて、「失礼しました、ブレンドですね〜」と言って、お出ししてくれた。
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作者名：12（とうふ）
作成日時：2015年4月1日 23時
