壱ノ弐 ページ3
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言峰の黒鍵がその生物の首をはねる。
「ヴァアアア゙ア゙ア゙!、アアア゙…!」
それでも首はずっと血眼で気味の悪い声を荒らげる。
それで生物は命を絶たれた。
ところが首のない身体が突然立ち上がり言峰に向かって走り出した。
「…やはりただの人では無かったか。」
言峰は苦々しく顔をゆがめて首のない身体の打撃を受け流し、躱す。
「魔術の気でもない。ならば…?」
此奴は一体何なのだ?
考えながらも言峰はその身体の四肢を削ぎ落としていく。幾らかそうしていると、流石に動けないのか生物は動きを止めた。
これ幸いと耳を塞ぎ、目を閉じて震えている男に声をかける。勿論、バラバラに散らばった生物の姿は見せないようにして。
「この恐怖をよく耐えました。もう脅威は去りましたよ。気を付けて帰りなさい。」
善良な笑みを貼り付けて言峰は言う。
言峰に助けられた男は首に下げたロザリオを胸の前で両手で握る。
男の目はまるで天使を見ているかのように心から蕩けていた。
「貴方が、神の使徒なのですね。」
言峰は内心、男の言葉を鼻で笑ってしまった。
他人の幸福も喜べず、ましてや不幸に幸福を感じる男が神の使徒だと?
笑わせる。
言峰は内心そう吐き捨てる。
しかし表面上は取り繕ったまま、静かに「帰りなさい。」と言い放った。
男が去った後、言峰はまたその蠢く生物と向き合う。
「随分とお強い神父様ですね。」
背後からこの場に似つかわしくない柔らかな女の声が聞こえた。
振り返ると、そこには蝶の羽のような羽織と学生服のような服を着、髪には蝶の髪飾りをした美しい──腰に刀を指した女がした。
言峰はまた貼り付けた笑顔で言う。
「おや、お嬢さん。こんな黄昏時に一体どうしたんだ?」
女はニコニコと人好きする笑顔を浮かべて黙っている。
「もう夜も間際だ。早く家に帰りたまえ。」
言峰の言葉も聞いているのか分からないが、女はゆっくりと言峰に近付く。
「貴方が先程まで対峙していたのは"鬼"と呼ばれる者です。元は人間なのですが、鬼になると身体能力は異常に高くなり、一般の人では太刀打ちも出来ません。」
突然語り出した女に若干引き気味になりながら、言峰は女を見つめる。
「それでも貴方はそれを完璧に捩じ伏せて見せた。凄いことです。」
言いながら女は刀を鞘から抜き、先端を生物の口元に向け、勢いよく生物の口を刀で貫いた。
「申し遅れました。私、鬼殺隊蟲柱。胡蝶しのぶと申します。」
女は笑った。
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本ぶくろ(プロフ) - わ...わぁ...。口が心臓から出てきそうなくらい好きです!陰から応援しますー! (2023年3月29日 0時) (レス) @page6 id: 268b376be6 (このIDを非表示/違反報告)
眞尋(プロフ) - 頑張ってください!応援してます!!高評価、お気に入り登録しときました! (2019年12月27日 18時) (レス) id: d2f316c579 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ひのまる。 | 作成日時:2019年10月27日 11時