10話 ページ10
「ったく、あのボウズも口が減らんな」
サイス中将は執務室に戻るなり書類をデスクに投げ捨てる。
机上から溢れた紙を咄嗟に拾い揃えた。
「向こうも間にあのボウズを置いてくるあたりいやらしい。
うちが食い破られた時と何一つやり口は変わらんな」
俺は黙して中将の声を聞く。
「カヅサよ分かっているだろうな、どうすべきか」
「はい」
返事をするも引っかかるものがある。
「…迷っているようだな。あの女か？」
年齢を感じさせない鋭い眼光に冷や汗が伝う。
どんなに隠そうとしても俺の身体が図星だと言ってしまっていた。
この人には、何も隠せない。
「何を迷う。お前の父親を抹殺した男だぞ？
その上、我が強固たる親衛隊を内より破滅に追い込んだ邪悪な外道だ。
今でこそあんなところに追い払われたが、あのまま生かしておいてもいつ牙を剥くか分からん。
命の対価は命で支払われるべきだろう？」
中将の怪しい笑みはどこまでも深い闇だ。
父の仇を追った時点で俺はこの闇に魅入られてしまったのだ。
この業はあの男を消すまで消えることはない。
そう思ってここまで前を向いて進んできたのだ。
あともう少し、そう思った矢先にAが現れた。
「良い、迷え迷え。若いうちだけだ、それも。
あの女、Aと言ったか？場合によってはこっちに迎え入れることも考えてやろう」
「本当でありますか!?」
「こんなことで嘘をついても仕方がない。そろそろ来るもの次第だがな」
「来る、とは？」
「失礼いたします。調査資料をお持ちいたしました」
扉が勢いよく開き、マントを羽織った華奢な紳士が入ってきた。
「ご苦労エーミール君。引き続き頼む」
「失礼いたします」
エーミールと呼ばれた男はチラリとこちらに視線を向け去っていった。
捲れたマントの下は隣国陸軍の軍服であった。
「今のは？」
「諜報員だよ。グルッペン配下の者たちの身辺調査をしてもらっていた。
優秀な人間はわが国に尽くしてもらいたい」
届いた書類をパラパラとめくり中将は、ほう、と深く感嘆した。
「カヅサ合格だよ。あの女には価値がある。
この逸材を捨て置くとは軍も阿呆だな。これだから男社会はつまらん」
中将は興奮気味にまくし立てる。
しかしこれでAを傷つけない理由ができた。
それだけで十分だ。
「カヅサ、やってくれるな？」
「この身を賭しても、任務遂行に務めます」
準備は周到に。
早鳴る鼓動と同期するように、廊下から激しく忙しい靴音が響いてきた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 253人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
煌月(プロフ) - ななしさん» ありがとうございます！ゆっくりですが更新していきますので、最後までお楽しみいただければ幸いです！ (2017年7月10日 17時) (
レス) id: d216df1310 (このIDを非表示/違反報告)
ななし - ひとらんカッコイイです。続き応援してます (2017年7月10日 16時) (レス) id: f53aaac50e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：煌月 | 作成日時：2017年5月29日 15時
