34話 ページ34
あの時のことは正直思い出したくない。
だって恥ずかしいし。
普段はそんな素振りを見せないよう普通に過ごしていたのに、あの時ばかりは感情的になりすぎた。
それなのに、Aはまだ聞いてくる。
「今またそれ掘り返す？」
そう返すと、Aは腑に落ちない様子だった。
それよりもAが隣国の王族の血筋だったって事の方が重大じゃないのかな。
「そりゃ、緊急事態だったし。
それに軍人とはいえ、女の子にあんなことするの許せないし、正直もっと酷いことされてると思ってたし」
Aを守るために俺も出向いたのに、結局防げなかった。
だから慌てたし、一気に頭に血がのぼった。
「つまり、単に女の子を助けに来たと？」
Aだからああした、とは言えなかった。
今ここで思いをぶつけたところで感情の薄いAから良いリアクションがもらえるとは思えない。
「うん」
「今は中将と呼んでいるのにあの時は中将をクソジジイ呼ばわりして斬りかかったのに、それだけ？」
実はバレているんじゃないか、コレ。
さすがにAも人の子だし、隠しているのも無駄では無かろうか…？
「…うん」
「だったら軍人としてはアウトでしょ。下手をすれば救出失敗の可能性も」
あ、バレてはないね。
「助けたのにお説教かよー」
「結果オーライだけど、問題行動が多すぎる。ありのままを報告したら処分モノだよ」
「はいはい、ゴメンナサイ」
どうせ軍人の定規でしか俺を測らない。
俺にとって不毛なこの会話はもう終わりでいい。
そう思って答えたのにAは、あのね、と小さく呟いてから続けた。
「私、忘れられないんだよ。
深入りしすぎたと後悔した時、廊下から騒がしい足音が聞こえてきて。
誰かが助けに来てくれたんだと信じて、ない頭を絞って扉の下に紙を滑り込ませた。
すぐに扉は開いて、そこで見えたらんらんは…」
あの時の状況を詳しく語るAの俯いた横顔にちらりと視線を配る。
あの日の夜ほどじゃないが、Aの目は少し潤んでいるように見えた。
「…俺がどうしたって？」
もしかしたら、思いは届いているのかもしれない。
「…ヒーローみたいで、かっこよかった」
「…なにか悪いものでも食べた？」
王子様、なんて言ってくれたら嬉しかったのに、とかいう贅沢も浮かべた。
それを隠すように冗談を口にするしかできなかったけど、本当は駆け回りたいくらい嬉しかった。
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煌月(プロフ) - ななしさん» ありがとうございます！ゆっくりですが更新していきますので、最後までお楽しみいただければ幸いです！ (2017年7月10日 17時) (
レス) id: d216df1310 (このIDを非表示/違反報告)
ななし - ひとらんカッコイイです。続き応援してます (2017年7月10日 16時) (レス) id: f53aaac50e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：煌月 | 作成日時：2017年5月29日 15時
