29話 ページ29
「君は、エールと同じ修道院で世話になっていた孤児なのだろう？」
「はい」
「エール曰く、君はいちばんの古株で同い年は２人だけだったのだろう？」
中将の笑みは黒く深くなる。
「それが？」
「君をあの修道院に預けたのは私だ」
「…面白いお話ですね」
「君は、当時の王妃ととある男との間の子なんだよ。その事実は王を怒らせ、王妃は処刑された。それが、わが国の制度が傾くきっかけとなったわけだが…」
「つまらない与太話だけならば失礼いたします。お陰様でもう大丈夫そうですので」
この男は、もう、夢を押し付けることしか考えていない。
魂胆は分かった、もういい、気分が悪い。
「そうはさせんよ」
中将は私の腕を強く掴む。
まあ、そうだよなー。
「今日は、全てサイス中将の計画通りってところでしょうか」
「あとは、君がこちらに帰ってくるだけだ」
「非常に魅力的なお話ではありますが、私にはこちらの国に何一つ思い入れはありませんし、貴方のくだらない国政ごっこに付き合って人生を棒に振りたくはありません」
「勝ちたくないのか、人生の勝者になりたくないのか？」
「貴方に付くのは負けるのと同意です」
「交渉決裂、か」
中将は腕を開放する。
ここは自国ではない。
死はおろか、ケガをさせるだけでもバツが悪い。
ここから離れるのが優先だ。
扉に手をかけると顔スレスレにナイフが突き刺さる。
「逃げれば良い。その時は手負いの傷を負わせてこちらで治療に専念してもらえばいいだけの話だ」
ナイフを投げたであろう右手は空いているが、左手には注射器が握られている。
倒すしかないのか。
ナイフを手に取り、戦闘態勢に入る。
「そんなこと、プリンセスのやることじゃないだろうに」
「私は軍人で、秘書官です」
距離を詰め、注射器を弾き飛ばそうとするも、中将の蹴りが入る。
ソファに飛ばされ、前には水。
テーブルから中将に向かって飛びながら水をかけ、中将の後ろの執務机に着地する。
足元の紙を１枚手に取り、扉に向かう。
「これくらいで目くらましになんてならんよ」
圧倒的不利の中、必死に足掻くしかなかった。
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煌月(プロフ) - ななしさん» ありがとうございます！ゆっくりですが更新していきますので、最後までお楽しみいただければ幸いです！ (2017年7月10日 17時) (
レス) id: d216df1310 (このIDを非表示/違反報告)
ななし - ひとらんカッコイイです。続き応援してます (2017年7月10日 16時) (レス) id: f53aaac50e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：煌月 | 作成日時：2017年5月29日 15時
