十五話:過去〜その2〜 ページ17
『そのあと、直ぐに家族全員で家を出ました。誰も寄り付かなそうな、深い深い森を目指して…。私は罪悪感と、恐怖でいっぱいになり、頭がショートしていたのであまり覚えていませんが、ずっと泣きじゃくっていたみたいです。』
どうしてだろう。時間が経つのがだいぶゆっくりに感じられる。
この場所だけ時が止まっている感覚に彼は陥った。
『その日から人目を憚り、毎日何かに怯えながら過ごしていました。父は、きっとなんとかなる、と私を励まし、母は個性の制御の仕方を一緒に考えてくれ、それなりに楽しく暮らせていました。』
それなのに、それなのに…、と声を震わせながらベッドのシーツをぎゅっと握り締める。
『ある日、父が街に生活用品を買いに山から降りたとき、事が起きました。一日経ってもまだ帰って来ない父を、母と二人で心配していたら、叫び声が聞こえたんです。扉を開けてみれば、血だらけの父と、ナイフを降りかざした男がいました。今思えば、あの男は石像と化した子の親だったのでしょうね』
シーツを強く握りすぎて、手のひらに爪が食い込んでいる。血も滲み、布が赤く染まった。
『無抵抗な父は、そのまま背中を刺されて動かなくなりました。最後に、掠れた声で「二人とも逃げろ」とだけ言い残して…』
『全てを察した母は、私の手を引いて裏口から逃げました。10分くらい走ったでしょうか。急にピタリと止まった母は、私を抱き締めて言いました。「ごめんね、A。お母さん、お父さんを虐めてきた人を懲らしめなきゃ…。だから、ここで待ってて。大丈夫。すぐ戻るわ』結局、帰っては来ませんでしたけどね』
遠い目をして、景色をぼんやりと眺めながら自傷気味に笑う。
ただただ哀しそうだった。
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橘欅 - はい、大正解です!時折他の曲も混ぜてますのでどうぞお当てくださいな。あと、応援ありがとうございます！最後までどうぞお付き合い下さい！ (2017年7月3日 17時) (
レス) id: df1377bb0c (このIDを非表示/違反報告)
mai(プロフ) - これって林檎売りの泡沫少女ですよね！とても面白かったです。次の展開に期待してます♪ (2017年7月3日 0時) (レス) id: 95be3cdce4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：橘欅 | 作成日時：2017年5月14日 19時
