あなたに夢中。Ⅱ (ページ36)

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you side

薬も効いてすっかり元気になったから、夜は大晴くんと夜景を見に行くことになった。

痛いときは泣いちゃいそうなくらい痛いのに、薬飲んだらすぐ治るんよねえ。不思議や。

「うわー、めっちゃきれい！」

福「Aはキラキラ系よりこういう工業地帯のほうが好きよな」

「うん！好き！夜景にもいろいろ種類あるんやねえ」

大晴くんの夜景慣れしてるかんじにツッコミ入れようかと思ったけど、今日はずっと笑かしてくれてたし、許してあげよ。

「癒やされるなあ。嫌なこととか、全部忘れそうや」

福「なんか嫌なことあったん？」

やば、無意識に出てた。

嫌なことなんてない。毎日ほんまに楽しい。

現場に行けばみんながいて、家に帰れば小島くんや大晴くんがいて。

わたしが忘れたいことは、1つしかなかった。

「んーん。ほら、生理痛とか寒さとか、そういうやつ。毎日めっちゃ楽しいで」

福「そっか。ならよかった」

ほんまは気づいてるくせに。わたしが忘れたいのは、生理痛とか寒さとか、そんなことやないってこと。

いつもみたいに「嘘つくな」って言うてこおへんのは、大晴くんの優しさ。

そういうところが、好きやった。

福「A」

「ん？」

福「俺さ、あのスキャンダルの記事が出た日、Aから電話来たのめっちゃうれしかった」

「ああ、うん」

福「あのとき俺が言うたこと、まだ忘れてない？」

「それこないだも言うてたな。もちろん覚えてるで」

お前以上に大切な女なんかおらん。

あの日、遠慮がちにはっきりそう言った大晴くん。わたしはその言葉を、今も信じてる。

メンバーにとって、わたしが「大切な女」であることに変わりはないと思う。うぬぼれとかじゃなくて、記号的な意味で。

やから大晴くんもそういう意味で言うたんやって思うことにした。本気でそう思いたかったわけじゃない。そう思い込むことにしただけやった。

なんであんなこと言うたん？

わたしのことなんて、なんとも思ったことないくせに。

いつか大晴くんが誰かと一緒になったときに、笑いながら「あの言葉なんやったん！裏切り者！」って言えるかな。

わたしが忘れたいのは、大晴くんのことをしつこく好きでいられへんかった、わたし自身。