ハート泥棒 ２

ハート泥棒 ５１ 貴女side ページ1

貴「…」


カチッとアパートのインターホンを鳴らす。

パタパタと走ってくる音がして、

ガチャリと目の前のドアが開いた。


女「おはようございます」

貴「おはようございます、行きましょう」


玄関の鍵を閉めたのを確認して、

私達は大学へ歩き出した。

昨日、泣いてしまったからか、

彼女の目は少しだけ腫れて赤い。


女「私服なんですね」

貴「スーツだと怪しまれますから」

女「ふふっ」


彼女は口元に手を添えて笑う。


何か、変な格好をしているだろうか。

黒スキニーに白いニット。そしてコートだけ。

特に違和感は無いはず。


女「こう見ると普通の女性ですね」

貴「え？」

女「スーツだと凄いカッコイイから」

貴「…あ、ありがとうございます」


何で褒められているのだろうか。

でも、かっこいいと言われて嫌な気はしない。

…私も、憧れのあの人に近づけただろうか。


女「あの男性は？」

貴「今警察署にいます」

女「そうなんですね、いつも一緒かと」

貴「大体は一緒ですけど」


普通の女性だ。

普通に話して、普通に笑っている。

医者を目指しているのも分からないくらい。

でも、実際は今日殺されるかもしれない人。


女「お２人って付き合ってるんですか？」

貴「いえ、全く」

女「付き合っているのかと」


私とテヒョンが？いやいや無い無い。

アイツから付き合って下さいなんて言われてないし

私から好きなんて言ってない。


女「カッコイイって思ってました」

貴「アイツが？」

女「超イケメンじゃないですか！」


あれは稀に見る奇跡。なんて。

良かったねテヒョン、褒められてるよ。


女「狙っちゃおうかな」


心の中でテヒョンを嘲笑っていれば、←

隣の彼女は驚くべきことを口にした。


貴「ダメです」

女「え？」

貴「あ、…えっと」


何でダメなんて言ったのだろう。

別に良いじゃない。私の彼氏じゃないんだし。

そう自分に言い聞かせても、

あまり納得は出来なかった。


貴「…アイツ性格は良いけど別に狙う程っていうか
ほら、残念なイケメンっていうか」

女「そこが良いんじゃないですか笑」

貴「ダ、ダメなものはダメですっ」

女「あははっ！Aさんって面白いっ」


からかっただけですよ。と彼女は言った。

そんなもの、いつもは上手く躱せるくせに、

なんで今日に限って…。


女「Aさんはあの人のこと好きなんですね」


そう言う彼女は少しだけ楽しそうだ。

私は全ッッ然楽しくないけど。

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