記憶と共に Ⅻ (ページ4)

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思い出の場所3 ページ4

日常が、非日常になって
それが『日常』になった

今度はソレがまた少し変わろうとしている
それは“非”日常となる＿＿？

「＿＿キンさんキンさん！！ペンギンが行進してる！！」

「よぉあんな歩き方でうまく行進できるなぁ。器用なやっちゃ」

トコトコ可愛く歩くペンギン、ゆらゆら幻想的に泳ぐクラゲ、たくさん並んだ水槽の中を楽しそうに泳ぐ小さな生き物たち

来る度にワクワクする水族館はいつ見ても心が踊る
空間一面に広がる水槽の中をたくさんの生き物が泳ぐ姿を見るのは迫力があるし、やはりイルカが泳ぐのを見るのは自分にはない姿で感動するのだ
その優雅な泳ぎにAが思わず足を止めると、それに気付いたキンタロスも倣って横に止まった

目を輝かせてイルカを目で追うAを見て、キンタロスはゆるりと頬を緩ませた

「なんや、安心したわ」

「え？」

“聞いた事がある”
Aは瞬時にそう感じて、話しかけてきたキンタロスの方を向く
そこには、こちらには顔を向けず、泳ぐイルカ達に目線を向けたままのキンタロスがいた

「最近、根詰めて特訓してはったからな。Aが好きな場所に行けば気分も晴れると思ったんや」

「それ…」

「あぁ、気付いたか？」

にか、と悪戯が成功したような無邪気な笑顔を向けるキンタロスにAもつられて頬が緩む

＿＿忘れられるワケがない
あの時、初めて誰かの隣で涙を溢したのだから
誰かが隣にいてくれる心地よさを教えてくれたのは、間違いなくキンタロスだ

「…良かったよ。約束が守られて」

「うん？」

「“あの時”、キンさんもう会えないつもりでいたでしょ？」

Aがそう言えば、ギクリとキンタロスは肩を震わせる
その様子に眉尻を下げながらAは息を吐き、そのまま視線をゆっくりをまた水槽の方へと戻しながら、Aは口を開いた

「私も……あの時はもう、会えないと思った」

「A…」

「怖かった。一度は掴んだハズだったのに。
身体を押された感触とか、キンさんの表情とか、あの時の絶望感とか、離してしまった悔しさとか…全部覚えてる」

“そう”しなくてはいけなかったキンタロスの判断は、きっと間違っていない
あの時、あれで合っていたんだと、Aも頭では納得している

だけど、どうやっても“あの記憶”が脳内にこびり着いて離れない
何度も何度も“覚えている側”を経験してしまったAは、その記憶力は誰よりも飛び抜けてしまっていた