できなかった話を今 ページ38
ゾムさんは苦しそうに痛みに耐えている。
その命の灯火が揺らいでるのは、誰の目にも明らかだった。
「……最期に、なるかもしれへんから…聞きたいねんけど」
だから、そんな前置きなんてしないで欲しかった。
一気に死が迫ってきた気がする。
あれから何分経ったのだろう。
迎えはまだなのか。ここまで来られるのか。
そんな考えを巡らせ始めた脳は、ぽつぽつと並べられるゾムさんの言葉を必死に拾う。
「Aのおった世界、って……どんな感じやったん…？」
何か今すぐにでも助けられる方法は。
そんなことを考えながら、思い起こすのは懐かしい記憶。
「…平和でしたよ。今とは、比べ物にならないくらい。……けど、それだけでもないっすね。少なくとも争いは起こるし、環境はボロボロだし」
こうやって口に出すのは、随分久しぶりだった。
ナイフを仕舞って、弓に矢をつがえる。
「毎日ご飯を食べて、仲間と部活して、テレビを見て笑う。それが当たり前みたいな、そんな世界でした」
話し出せば、言いたいことはたくさん思い浮かんだ。
こっちでもらった分を、返せるくらい。
「学校で授業受けて、帰りにコンビニ寄ったりして。…帰ったらおかえりって言ってくれる人がいて」
手に持った弓矢が、周りの風景が、違和感を訴えているようだ。
ここの風景は、やっぱりどこか俺には似合わない。
慣れとは違うのだろう。
「楽しかったです。…本当のことを言えば……ここの生活より、もっと」
「……やっぱり、そう、よな」
ゾムさんがぼそりと、空気のように掠れた声で相槌を打つ。
でも。
この話は、続きがなきゃ成立しないんだ。
「でも、ここに来てから数え切れないくらいのものを貰いました。それがなきゃ、俺は楽しかったなんて思わなかった。…多分」
力強くそう話せば、ゾムさんは俯いていた顔を少し上げた。
隠れていたペリドットが、ようやく見える。
「俺、つまんねぇなって思ってたんです。面白いことって毎日起きてくれるわけじゃないし、忙しいし。でも、それが楽しかったんだって、幸せだって知ったのは、ここに来てからなんです」
非日常を知らないと、日常が恋しくはならない。
そこにあるものが、当たり前じゃないと気づかない。
きっとみんなそうなのだろう。
こんなこと、想像したこともなかった。
「ここに来れたから、本当の想いを見つめ直せた。恥ずかしいけど…それって、なかなかないんすよ」
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Lento(プロフ) - 雑食さん» ありがとうございます！勇者の使命を最後まで見届けていただけると幸いです…。 (2021年4月7日 12時) (
レス) id: 109e7882d5 (このIDを非表示/違反報告)
雑食 - すごい泣けてきた。。現実を突きつけてくるみたいで好きです。 (2021年4月7日 1時) (レス) id: 065cb097ab (このIDを非表示/違反報告)
Lento(プロフ) - お餅の中のお餅さん» ありがとうございます！頑張ります！！ (2021年4月5日 9時) (レス) id: 109e7882d5 (このIDを非表示/違反報告)
お餅の中のお餅 - 楽しみだ、頑張ってください。 (2021年4月5日 6時) (レス) id: 9d76c4111a (このIDを非表示/違反報告)
Lento(プロフ) - うおさん» ありがとうございます！今更新止まってますが続きますので！もう暫くお待ちください！ (2021年3月2日 12時) (レス) id: 109e7882d5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：Lento | 作成日時：2020年3月18日 19時
