魔術師の懺悔(d!サイド) ページ36
※兄さんside
この戦争は、一度我々を破滅に追いやった戦争だった。
それを知っているのは、俺しかいない。
そして、Aが召喚された理由を知っているのも、俺しかいない。
今はまだ帰せないと知っているのも、全部全部、俺しかいない。
だって、全部俺がしたことなのだから。
誰かに頼まれたのではない。
俺が、俺の意思でやったことなのだ。
魔術なんていうものを使って、俺は私利私欲のために世界を捻じ曲げた。
『術者の本名』を対価に、時を巻き戻したのだ。
逆行した世界で、俺はあの禁忌魔術を使うと決めた。
…たとえ、俺があの場所に居られなくなるとしても。
俺は時が戻った世界で、あの戦争の前に戻った世界で、少しずつ未来が変わる日々を過ごした。
そして、あの魔導書に興味を惹かせて、俺はある魔術を施した。
勇者を、召喚する魔術を。
グルッペンは責任を感じているようだが、元はといえば、俺が興味を惹かせたのだ。
悪いのは、全部俺だ。
勇者を召喚するときには、必ず使命が必要になる。
その使命を果たすまで、勇者を帰すことはできない。
だから、まだ、だめなんだ。
…どうか、使命が果たされるその時まで、あの呼子笛がならないでほしい。
あれがなるという事は、我々軍は、勇者は、絶体絶命の危機に瀕していて。
俺がそこに行ったとて、きっと救えるものには限りがある。
魔術には、相応の手順がいるから。
素早く施せるのは、簡易的な魔術のみなのだ。
あの呼子笛がなって、俺がテレポートされれば、勿論俺は戦う。
すべてを守ってみせようとは、思っている。
でも、対価として奪われる『術者に関する記憶』のせいで、俺はあいつらに深く干渉できない。
これ以上、未来を不安定にする訳にはいかないからだ。
使命を課して勇者を異世界に縛り付けることは、それほどの魔術なのだろう。
…承知の上なのに、その時のことを思うと胸が苦しい。
Aが帰れば、使命が果たされれば、俺もお役御免なんだから。
当然……かなぁ…。
あいつらと長い間一緒にいることは、もうできない。
俺の魔力は、もう残り少ない。
Aを帰すときに消えてなくなるだろうと、薄々勘付いている。
やり直せるのは、あの一度きりが最後だったのだ。
もしこの世界が失敗に終われば、我々軍はもう救えない。
そんなのは、絶対に嫌だ。
………ああ……本当はまだ、一緒に──。
そんな本音は、とうに呑み込んだはずなのにな。
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Lento(プロフ) - 雑食さん» ありがとうございます！勇者の使命を最後まで見届けていただけると幸いです…。 (2021年4月7日 12時) (
レス) id: 109e7882d5 (このIDを非表示/違反報告)
雑食 - すごい泣けてきた。。現実を突きつけてくるみたいで好きです。 (2021年4月7日 1時) (レス) id: 065cb097ab (このIDを非表示/違反報告)
Lento(プロフ) - お餅の中のお餅さん» ありがとうございます！頑張ります！！ (2021年4月5日 9時) (レス) id: 109e7882d5 (このIDを非表示/違反報告)
お餅の中のお餅 - 楽しみだ、頑張ってください。 (2021年4月5日 6時) (レス) id: 9d76c4111a (このIDを非表示/違反報告)
Lento(プロフ) - うおさん» ありがとうございます！今更新止まってますが続きますので！もう暫くお待ちください！ (2021年3月2日 12時) (レス) id: 109e7882d5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：Lento | 作成日時：2020年3月18日 19時
