いざ、淑女となって ページ1
柔らかな笑みを湛え、ほんの少しうつむき加減に歩く。
大先生は凛と背を伸ばして歩き、昨日までとはまるで別人だ。
「ーー、ーーーーー」
「……」
言いつけを守り、言われた以上のことはしない。
緊張ではしゃぐ鼓動は、大会の空気を思わせた。
服に忍ばせたナイフとお守りの笛、前にいる大先生の背と声だけが心の拠り所だ。
耳を澄まし、僅かなサインも聞き逃さないように気を張り続ける。
パーティーも佳境と言った時、傍でコツコツ、と踵を二度鳴らす音がする。
これは大先生が俺に送る合図のひとつ……。
しかし、それを送った人物は見知らぬ男だった。
目が隠れるほどの長い前髪から覗く、ペリドットのような瞳がちらりとこちらを見る。
(え、誰?)
と思いながら、形だけの挨拶を交わした。
その時見えた笑顔は、そっくりそのままゾムさんで。
(えっ、ゾムさん…!?この人が!?……うわぁ、美形ぃ〜)
フードのないゾムさんもイケメンでした。くそう。
大先生は既にゾムさんに気づいているようだが、なかなか話が切り上げられないようだ。
ゾムさんは一度大先生を見るも、俺に耳打ちして、ぱっと居なくなってしまった。
(なんて?待って!?今のなんて意味!?)
大先生と人気のないベランダまで来ると、真剣な眼差しで問われる。
「ごめん、相手できひんかった。ゾムさんはなんて?」
やっぱり、ゾムさんは大先生に報告したかったのだろう。
お偉いさんの相手をしていたため断念したのか。
「えっと、る、るくつぃんぐ…みたいな……」
「それやと
そう言って大先生はベランダの柵に身を乗り出す。
やけに高い一階分下に、植え込みが見えた。
「あそこに降りる。はい、手」
当然のように手を差し出し、飛び降りますよ、なんて顔をする。
「えっ、う、無理っ!!」
誰が降りられるかこんな高いところから!!
そう答えると、大先生は焦りを隠すように笑って、俺の手を掴む。
「……僕、抱えられへんねん。ゾムさんもう遠くおるみたいやし…お願い、絶対大丈夫やから」
俺は何故か大先生のインカムを耳に付けられる。
不思議がっている間に「せーの」と言うので、声に合わせて柵を蹴った。
飛んだ瞬間、ぱっと手を離され、俺は少しの衝撃とともに植え込みに落ちる。
驚いて上を見ると、大先生はツラそうに笑ったまま「ごめんね」と口を動かした。
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Lento(プロフ) - 雑食さん» ありがとうございます!勇者の使命を最後まで見届けていただけると幸いです…。 (2021年4月7日 12時) (レス) id: 109e7882d5 (このIDを非表示/違反報告)
雑食 - すごい泣けてきた。。現実を突きつけてくるみたいで好きです。 (2021年4月7日 1時) (レス) id: 065cb097ab (このIDを非表示/違反報告)
Lento(プロフ) - お餅の中のお餅さん» ありがとうございます!頑張ります!! (2021年4月5日 9時) (レス) id: 109e7882d5 (このIDを非表示/違反報告)
お餅の中のお餅 - 楽しみだ、頑張ってください。 (2021年4月5日 6時) (レス) id: 9d76c4111a (このIDを非表示/違反報告)
Lento(プロフ) - うおさん» ありがとうございます!今更新止まってますが続きますので!もう暫くお待ちください! (2021年3月2日 12時) (レス) id: 109e7882d5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Lento | 作成日時:2020年3月18日 19時