スラ厶街より (ページ12)

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マフィアに勧誘ページ12

流星街と外部との交通手段は2つある。

西端の港から海路で行く方法。もしくは、北か南から陸路で行く方法の2つだ。

東は山脈に囲まれているため人は滅多に来ないが、時々ゴミ捨てか人攫いかでわざわざ登山してくる人間も、まあ、居ないことはない。

その日はちある外来者のお陰で、いつもより一層賑やかな一日だった。

「すごい、あれ何だろ...」

訓練生の1人が呟いた。

北から流星街に入ってきたトラックから、黒服の人間たちや組み立て式の机、湯気を立てる豪勢な食事などが出てきた。

それは、マフィアの配給だった。

「君たち、お腹は空いてないかな？」

黒服の1人が集まってきた子供達に声がけした。

「もしもこいつを倒せたら、見込みありと見なして好きなだけ飯を食っていいぞ!
代わりにうちで雇わせてもらうが」

こいつ、とは2mほどはあるだろう大男で、鎧を着て重たげな斧を持っていた。

「すげ...美味しそうな飯だな」

流星街は決して誰も飢えて死ぬことがないよう、助け合う場所だ。
住民に嫌われてているのでもなければ、餓死する前に食料を分けてもらえる。

保全隊訓練生の面子には、その特殊性から毎日2食の配給はあった。

乾パン、トマト缶、水と脱脂粉乳。

食べざかりの子供達にとっては「これっぽっちか」と思う程度の配給。

要するに流星街の住民にとっては、餓死は免れようと腹が空いているのが日常であり、訓練生といえどその現実からは逃れられないということだ。

「挑戦してみようかな」

「お、俺も行く」

20数名の訓練生が誘蛾灯のように列に並んでいく。

倒す相手はプロの格闘家。

(それでも所詮"一般人より強い"レベルだな)

Luは冷徹に力量を推測して心の中で呟く。

(保全隊で念能力を習得している人間なら、彼を倒すのは難しくないだろう)

実際、念能力を会得していた先方隊は勝利を収め、嬉しそうにワゴンのご飯にがっついていた。
勝負に挑んだうちの8割は勝負に勝っている。

「俺たちマフィアの仲間になったら、美味しいご飯が毎日食べられるよ」

胃袋を捕まれ、甘言にほだされ、契約書にサインする子供達。

ここ数日まともな食料に恵まれなかったLuも自然とお腹が鳴ってしまう。

(しかし...)

Luは懸念を抱いて、列に並ぼうとする1人の肩に手を伸ばす。

「挑戦するのは」

よしておけ、そう言うつもりだった。

しかしLuの言葉は、「シッ」と言う少年の手の平によって封じられた。