もしあなたが【短編】 (ページ23)

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「こんな感じでどうですか？」

『はい、ありがとうございます』

「よし、じゃあお疲れ様でした」

もう終わってしまった。

金子さんとの会話はいつも楽しくて時間が経つのが早い。

気付いたらカットが終わってしまっている。

もっと金子さんと話したかったなって思いながら
棚から出された鞄とコートを受け取る。

金子さんはカウンターでレジを操作し金額を提示する。
私は言われた通りの金額を財布から出すとレシートを渡された。

お礼を言ってお店を出ようとするが金子さんに声をかけられる。

「Aさん、お伝えしたいことが」

『はい？』

カウンターから小さな名刺のような物を取り出し渡される。

「もうすぐ独立するんです」

『え、お店持つんですか』

「はい」

『凄いですね！おめでとうございます』

「ありがとうございます。それでこれがお店の住所と番号です」

「ここからそんなに遠くないんですね』

「今のお店ではもうAさんの担当はできませんが
こちらのお店に来てもらえば担当できるんで...ぜひ」

『分かりました！これからも金子さんに切ってもらいたいので
今度予約する時はこっちのお店に電話します』

「............Aさん」

『はい』

金子さんはカウンターからボールペンを取り出し
私に渡したお店の案内に何かを書き込む。

何か数字を書いてる。

『金子さん？』

「これ俺の番号です」

『え？』

「お店に電話するよりこっちの方が確実なんで」

『は、はい』

「お店の予約以外の連絡も受付けてるんで」

『お店の予約以外？』

「例えば、飲みに行くお誘いとか」

『飲みに行く誘い...』

「デートのお誘いとか」

『デートの誘い......え？』

後ろの自動ドアが開きお客さんが入ってきた。

金子さんは呆然とする私から視線を外し
後ろのお客さんに声をかける。

「いらっしゃいませ、どうぞ」

置いてかれた私は番号が書かれた紙を両手で強く握りしめた。