21話 とある悲劇の話をしよう ページ24
自己犠牲についてこの男に言われるのは些か気分が悪い。なぜならこの男こそ自己犠牲の塊だったからだ。
才能もある。力も人徳もある。それなのに奴は自己を犠牲にした。
飢餓などどうでもいい、自分が生き残れればいい。
もし彼がそう思っていたなら、島原の一揆は起こっていなかったかもしれない。
そして、私が死ぬこともなかっただろう。
「動けますか？」
奴が聞いてくる。ああ、この質問も昔されたのだった。
あの日は、身体がとても寒かった。
他者の血と自らの血が入り混じり、着物は破れ髪は赤く染まり刀は刃こぼれしかけて、私は同じように膝をついていた。
「煩い。一人で歩ける。」
私もあの時と変わらない受け答えをする。同じことを繰り返す。
「王子様に甘えなくていいの？」
女が楽しそうに言って私は舌打ちした後に苛立ちを込めて言う。
「黙れ。」
「恋愛相談なら聞くわよ？二人とも奥手そうだし。」
「ふざけるな。」
目の前の天草四郎から視線をそらしたまま、私は足に力を込めーーー崩れ落ちる。
「っぐ！」
足に力が入らない。まるで感覚が繋がっていないかのようだ、訳が分からない。
たしかに先程まで歩いていたはずの地面を踏みしめる感覚がなくなっている。
ほんの僅かな時間の僅かな瞬間。地面にぶつかると思った・・・が。
痛みはなく、景色も静止し、肩のあたりに感触がある。
「お前っ」
「力が、入らないのでしょう？」
顔を上げれば目の前にやつの顔がある。本当に短い距離にある。
やつの瞳に私の顔が映っている。私は、どこか泣きそうな顔をしていて。
それが、とても恥ずかしい。
「お願いですから。」
自分を大切にしてください。と懇願される。そんな事、そんな事は分かっている。
けれど自分を犠牲にしてでも果たさなければならないこともある。
「嫌だ。」
私には力がないから。天草四郎と違って力がなかったから。
「私は聞かない。」
自分を犠牲にして事がなせるなら、本望だ。
「お前が憎い、お前を殺せる力のない私が憎い。お前が羨ましい、お前が妬ましい。」
下を向いて私は吐き出す。
なんて醜い憎悪、なんて醜い嫉妬。
「お前が、憎い。」
死して尚も色褪せぬ。
恥ずかしいまでの憎悪と嫉妬。
「・・・そう、ですか。」
男は、そう言って苦しげな笑顔を作った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 330人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
コッペリア - renaさん» ありがとうございます。一気よみ、割と時間がかかるのに読んでくださって本当にありがたいです。続編でもよろしくお願いします。 (2018年3月25日 12時) (
レス) id: afa478f1da (このIDを非表示/違反報告)
コッペリア - Mさん» なかなか更新できなくて申し訳ありません…そろそろ続編ですのでそちらの方もよろしくお願いします。 (2018年3月25日 12時) (レス) id: afa478f1da (このIDを非表示/違反報告)
コッペリア - あっぷるさん» ありがとうございます。続編が完結して余ったページで作る予定なのでちょっと時間がかかりますがよろしくお願いします。 (2018年3月25日 12時) (レス) id: afa478f1da (このIDを非表示/違反報告)
rena(プロフ) - とても面白くて一気に読ませていただきました！更新楽しみに待ってます！ (2018年3月24日 23時) (レス) id: 8104f6caff (このIDを非表示/違反報告)
M(プロフ) - 天草と夢主ちゃんがとても好きです^^*続き楽しみにしています。更新頑張ってください！ (2018年3月18日 21時) (レス) id: bf7dfd3d5f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
