恋を知るちぐはぐ 【ヒソカ】

Thirtynine 花火の音のせいにして ページ40

『―…只今より、花火の打ち上げを開始します』


「…あ、花火だって」


『ここ座ろうよ』



アナウンスが聞こえて、気付けばほとんど人気は無くなっていた。
港の方はもういっぱいだから、近くのベンチに座った。



「はい、水」


『わ、ありがとう！
いつ買ってたの？』


「ひ・み・つ♡」


『……』


「…いいね、その目」



凄んで睨んでやれば、そんな事言った変態。


…途端に、花火は打ち上がり始めた。



『わぁ、綺麗…！』


「そうだね」



花火が打ち上がり、思わず声をあげる。

隣を見れば、楽しそうに揺れる赤髪。


…赤い爪。素敵だなぁ。

男がマニキュアなんて…って思ったけど何故かヒソカなら許せてしまう。

私も、赤いマニキュア塗ろうかな。



『わっ、ほら、見てヒソカ！
あんなに大きな花火…！』


「……うん」




―…可愛いA。ボクの彼女。

ただの花火大会で、こんなに喜んでる。


ボクは、全く利益の無い無駄な事。

…今までそう考えていたのに。


Aと出会って、一目惚れして、馬鹿をして

想いを伝えて、付き合って、嫉妬して、喧嘩して

仲直りして、買い物行って、遠出して

キスをして、花火を見て。


初めてを沢山もらった。

始めて、恋愛を知ったし、人を真っ直ぐに愛せた

歪んだ愛しか知らなかったボクに、純愛を教えてくれた。

弱いはずのその女を、強がる君を

本当は優しくて可愛くて、我慢ばかりする

大切な、A。



「ねぇ、A」


『何〜？ あっ、また大っきいの！ ……』



「―……愛してる」



ドォォッォンッッッ―………



こっちを向いたAの耳元で囁いた。

…それは、巨大な花火の音に邪魔される。


普段のボクなら、メイクが崩れたって言わない言葉。



『…え？ なに？ よく聞こえなかったよ』


「……二度は、言わないんだからね」



それは、彼女には聞こえてなかった。


何かモヤっときて、ボクは勢いでAを抱きしめた。



『っ…！』



―…嘘だよ。ちゃんと、聞こえてたよ。

恥ずかしくて、“私も” なんて言えないから。


自然とヒソカと向かい合う。

ヒソカの、全てを見通す金の瞳。



『ヒソカ……………好き』

「……ボクも」



その瞳が閉じたのを確認して、ぼそりと呟けば

聞こえたようで、その一言だけ。


あとは、2人。

何度も 甘い、キスをした。

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