【n.p.l】朝焼 (ページ34)

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　何回歩いたかも分からない、地下鉄までの道。
　路線が違うのに、毎回わざわざ私の乗り場まで送ってくれるこのホームもこれで最期だ。
　寂しいな。一緒にいるの、楽しかったな。
　好きだったな。
　もう、本当に最後なんだな。

　「あのさ、蘭たん」

　「どした？」

　「蘭たんがいてくれて、4年間凄い楽しかった」

　「なに急に！やめてや！」

　「うるさいな、蘭たんがいなかったらここまで頑張れなかったの！」

　「えー待って、恥ずかし……
　俺も、俺もAいなかったら絶対繁忙期で辞めてたわ」

　電車が着く。
　開いたドアから人々が降りて、私が乗り込む。
　言っちゃおっか。
　言って、踏ん切りつけちゃおっか。
　どうせ最後なんだし、後悔したくないや。

　「蘭たん、あのね。
　ずっと好きだったよ」

　今度は蘭たんの驚く顔と、同時に閉まる電車のドア。
　言っちゃった。
　もう会えないかな。
　折角あんなに仲良かったのに、勿体無いことしちゃったかな。
　でもこれでいいんだ。
　最後に撮ったツーショットをお気に入りに登録しようとして、画面を付けた瞬間通知が飛び込む。

　『駅着いたら教えて』

　『お前だけ伝えて逃げんのはずりーわ』

　どうしよう、どうしよう、
　指の震えと頬の熱さと、感情がぐちゃぐちゃになって、目からも涙が溢れてきた。
　早く駅に着け。
　いや、やっぱり着かないで。
　無常にも電車は何も変わらず進み続けて、遂には最寄駅に着いてしまった。

　どうしよう。
　やっぱり震える指で、着いたよ、とだけメッセージを送ると。
　すぐにかかってくる電話の表示。

　『もし、もし』

　『ちょっとさあ、言い逃げはずるいんじゃない？』

　『最後なんだし、と思って』

　『はぁ……俺の身にもなってよ。
　直接言いたかったのに、負けたみたいじゃん』

　『勝ち負けなんて関係ないじゃん、後悔したくなかったんだもん』

　『最後とか後悔とかやめてよ。
　いい？一度しか言わないからよく聞いて』

　なに、と言おうとした声が出なかった。
　鼓動がうるさくて、周りの雑踏なんて耳に入らなかった。

　『俺がバイト続けれたのはAがいたから。
　ずっと好きだったし、今も好きだから。
　付き合って欲しい』

　3月は、別れの季節。
　でも、さよならだけじゃないらしい。
　だから精一杯の笑顔で返事をした。
　近いうちにバイト先一緒に行って、店長のことびっくりさせちゃおっか。