前途多難 ページ9
レッスン開始から早数日が経つ。
本日、私達のダンスを教えてくれる講師陣は岩本さん、佐久間さん、阿部さん、そして向井さん。
とにかくひたすら1セット、同じ動きの練習だ。
「じゃあ、一回休憩挟みましょうか」
「…はい」
きっとヘロヘロになってる私を見てそう言ってくれたんだろうと思う。
岩本さんのその一言に救われた私は、周りの目も気にせずその場に大の字になって寝転がった。
息がぜぇぜぇして肩で息をするような状態、なんてみっともないんだと情けなくなってくる。
自分の不甲斐なさと、うまく踊れない悔しさに目を固く閉じた時だ。
頭上からあのハスキーボイスが聞こえてきた。
「Aさん、大丈夫ですか？」
「はい、なんとか…」
そう返事して再び目を開けると向井さんが私へ手を差し伸べてくる。
あぁ初日もこんなことあったなぁって思いながらまたその手を取ると、やっぱりあの時のように引っ張り上げられその場に起こされた。
すると私の隣に向井さんが座ったのでなんで？ってちょっと思う。
「すごい頑張ってますね、Aさん」
「いやぁ…はは、でも全然踊れてないですけどね」
「でも動きは分かってますよね？ただそのぉ…」
「あー言いたいことは分かってます。身体がそれについていってないんですよね、そうなんです。こう頭と動きが連携しないというか…ね、破壊的に下手でしょ？ダンス」
「いえっ、そのファイティングスピリッツはすごいと思います！」
「はは…ありがとうございます」
まぁそう言うしか返す言葉もないか。
きっとメンバー全員に思われてるだろうな、まさかここまでとはってね…
だから迷惑だってんのに、てつやめ。
今度会った時にはギタギタのメッタメタにしてやる！
「ところでAさん」
「はい」
「あの、いきなりなんですが…好きな男のタイプってどんなですか？」
「…はぃ？」
「あ、すんません！ちょっと個人的に気になったもんですから」
それはまた…踊りと全く関係ないよな？
「そうですね、おかあさんといっしょのかずむお兄さんです」
「えっ、誰⁈」
「体操のお兄さんです。笑うと目がなくなっちゃう人が好きなんです、もし分からないようでしたら後で検索を」
「待ってください、今スマホ持ってきます！」
向井さんが慌てて立ち上がりスマホを取りに行くのを見送った私は一つため息をついた。
ほんと、前途多難だわこりゃ…
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作者名：かえで
| 作成日時：2024年1月7日 11時
