衝動のまま ページ25
胸の鼓動の高鳴りと、それだけじゃなくて…
もうすぐそこまで迫る、向井さんとの別れの時に心が掴まれたみたいにぎゅって痛くて苦しくなる。
こんな気持ちになったことなんて今までなかった。
今の私を素直に伝えることが出来たなら、向井さんはなんて言うかな。
それはホームで新幹線が来るのを二人並んで待っている間のことだった。
「Aさん」
「は、はい⁈」
「また岡崎遊びに来てもええですか？今度はゆっくり市内周りたいです」
「はい、待ってます」
「Aさんもまた東京来る時に連絡ください。ご飯食べに行きましょ？」
「そうですね、分かりました」
「本当は俺の手作りチャーハン食べてほしいんやけどなぁ」
「え、チャーハン得意なんですか？」
「はい、もうほんまにパラっパラですよ。俺の作るチャーハンは！」
「へぇ、食べてみたいかも」
「え、ほんまですか⁈ほな今度うち来ます？」
「えっ⁈」
「チャーハンご馳走するんで」
向井さんが笑顔で私にそう言ってくれた時、新幹線がホームへと滑り込んできた。
発車時刻が迫り、乗車した向井さんとホームに立つ私は向かい合わせで見つめ合う。
暫くして発車のベルが駅の構内に響き渡った。
「ほな、Aさんまた」
「はい…」
別れたくない、まだずっと一緒にいたい。
私は、向井さんと…
そう強く思った時、私は反射的に向井さんがいる新幹線に乗っていてそれと同時に背後で扉が締まる音がした。
「え…」
「え？」
「「ええーっ⁈」」
この状況にお互い向き合ったまま驚きを隠し切れず叫んでしまった。
そして動き出す車体の窓の外が流れていくのを見て、まさか自分がこんなことするなんてと今も信じられない。
だけど確実に目の前には向井さんがいる…
それなら、もうここまできてしまったのなら、この衝動に従ってしまおうか。
私は向井さんの背中に手を回しその胸に顔を埋めた、するとそれに応えるように私の背中にもゆっくりと腕が回される。
「出来るやないですか、気持ちのまま情熱だけで動くってやつ」
「ほんとですね…」
「これって俺、期待しちゃってええってことになります？」
「ってことになりますね」
「っええ⁈ほんまにぃ？えっ、マジほんまですか？」
「はい…」
「やば、どーしよ！ほんまうれしい…」
まだ気持ちがふわふわしていて、これをどう言葉にしたらいいのか分からないけど。
でも向井さんに今の自分の想いを不器用なりにちゃんと伝えたい。
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作者名：かえで
| 作成日時：2024年1月7日 11時
