気になる言葉 ページ16
練習延長が決まって翌日。
スタジオに入ると向井さんが、私に気づいて笑顔で駆け寄ってくるのが一番に視界に入ってきた。
「Aさーん、おはようございまーす！」
「おはようございます」
「体調はどうですか？」
「はい、おかげさまで。先日は本当にありがとうございました」
「いやほんま、Aさんの風邪良くなって良かったぁ」
「向井さんの作ってくれた雑炊のおかげですかね？」
「まぁそれはあるかもですね」
そんな会話の後、私達は笑顔でお互いを見合った。
なんだろ、なんか…
やっぱり向井さんに会えるとほっとする、胸の中に嬉しさが広がる。
あれ、これってちょっとヤバい感情じゃない？
もしもこの気持ちが本当にそれだとすると、これは絶対相手が悪すぎる…
「あと少しですね」
「え？」
「練習でこうやって会えるのも」
「あ、あぁ…そうですね」
「なんや寂しくなってきました」
「…でも、まだ日にち残ってるし。それまでよろしくお願いします」
そう言って小さく頭を下げてみたけど、向井さんはなんだか悲しげに膨れっ面をしたまま。
あれ、私なんか変なこと言ったかな…？
「Aさん」
「はい」
「あのぉ、出来ればこの企画が終わった後も俺と会ってもらえませんか？」
「えっ、それはどういう…」
「はーい、じゃあ練習始めまーす！」
向井さんにその言葉の真意を聞こうとした時に、レッスン開始を知らせる深澤さんからの号令によってそれは中途半端なままになってしまった。
その後、残りの数日のレッスンは滞りなく進んでいった。
だけどあの時、向井さんか言ったことの答え合わせはタイミングが合わずできていないまま時だけが過ぎていく。
そしてとうとう、この企画最終日を迎えることとなった。
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作者名：かえで
| 作成日時：2024年1月7日 11時
