優しい味 ページ13
なんだろう、宙を舞うようなふわふわした感覚と温かなぬくもりがとても心地いい。
ここはどこ…？
「あれ…？」
ゆっくりと目を覚まし辺りを見回すとそこはマンションの自室、額に手をやれば冷えピタが貼ってあった。
え、私ダンスの練習してたよね？
それなのになんで部屋で寝てるんだろ…
むくっと身体を起こし、ゴソゴソとベッドを抜け出して部屋を出た。
リビングに向かうにつれ、何だか賑やかな話し声と笑い声が聞こえてくる。
「あ、Aさーん！起きたんですね、大丈夫ですか？具合いどうですか？」
「…えっ⁈なんで向井さんがここにいるの？」
部屋へ入って私が真っ先に目に入ってきたのが向井さんの姿。
絶対いるはずがないと思ってる人がそこにいて本当にびっくりした。
「おーA、もう体調良くなったか？」
「向井くんにお礼言いなよ？スタジオでA倒れて病院連れてってくれたんだから」
「えっ、病院⁈向井さんが？」
「ええねん、ええねん！気にせんといて」
何のことやらさっぱり理解できない私に、りょうくんとしばゆーがここに至るまでの流れを説明してくれて。
それを聞いてさーっと血の気が引いていった…
大迷惑にもほどがある‼︎
「向井さん、本当にすみませんでした！」
「いや、謝らんといてください！Aさんのお役に立てて俺は大満足してんねんから」
「自分の不摂生で体調崩した挙句、ただでさえ時間がないのに練習中断させて病院まで…お詫びのしようがありません」
「そんな重く考えんでえーから、Aさん。せや俺、雑炊作ったんです。食べますか？今持って来ます」
「向井くん、料理すげぇうまいんだよ。びっくりしたわ」
「なに図々しくご相伴にあずかってんのよ…」
「まぁまぁ、旅は恥のかき捨てって言うではないか。安心したまえ」
「それはちょっと意味履き違えてんな」
「Aさんどうぞー、それ食べて薬飲みましょう。すぐ元気になりますよ！」
「あ、すみません…」
向井さんが作ってくれた雑炊は、出汁が効いたとても優しい味がした。
なんだか向井さんのようだとなんとなくそう思った。
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作者名：かえで
| 作成日時：2024年1月7日 11時
