熱発 ページ11
この日は何だか朝から体調がすぐれなかった。
起きてすぐ感じた喉と身体の節々の痛みと倦怠感。
風邪のひき始めのような症状、下手すると熱も若干あるような気もする。
「まずいなぁ…」
小さく呟きながら、でも練習日も残り僅かというところで休む訳にもいかないことは考えるまでもない。
気だるい身体を引きずりながら支度をして軽く朝食を済ませ念の為、薬を飲んでスタジオへ向かった。
そのタクシーの中、マスク姿の私をりょうくんにはちょっと勘づかれてしまったっぽい。
「Aさ、具合い悪いんでしょ？」
「いや、いちを念の為ね。動けないほどじゃないから大丈夫」
「無理するなよ」
「うん、でももう練習できる時間も少ないいからね。頑張る」
そう言ってりょうくんにへらって微笑んだら大きな手が頭をぽんぽんしてくる。
辛くなったら早めに俺に言えって言いながら。
いつも思うけどこのさりげない優しさのおかげで、私はこの場所にいられてるよなぁって思った。
ダンススタジオに到着して、軽くストレッチを済ませてからレッスンはスタートする。
本日の私の講師は渡辺さんと向井さん。
「しょっぴーはやらんでええよ、俺が教えたる！」
「いや、なんでだよ！」
二人のやり取りにちょっと笑ってしまったけど、まぁなんとかその後からは順調に練習は進んでいった。
が時折、向井さんが…
「あーAさん、ちゃうちゃう！そこはこうしてこうしてこーやで」
「っ、え、ちょ、向井さん⁈」
まさに手取り足取りなんなら腰取り、密着しながら色々細かく教えてくれちゃうのでどうしていいか分からなくなる。
そんな向井さんに渡辺さんがおいおいってツッコミを入れた。
「康二、お前やたら触り過ぎな？普通にセクハラじゃねーかよ」
「いやいや、純粋にこうやった方が覚えるって」
「逆に覚えられねーよ」
「あれ、なんやAさん身体熱ない？」
「え？あぁ、ほら身体動かしてるからじゃないですか？」
「ほな少し水分取りましょ？」
「はい…」
向井さんを見上げたその時、いきなり視界がグルグルと大きく回り出す、それと同時にふっと目の前が真っ暗になっていった。
「Aさん⁈」
意識が無くなる瞬間、向井さんが私を呼ぶ声だけがはっきり聞こえていた。
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作者名：かえで
| 作成日時：2024年1月7日 11時
