月の舟 3(side EIJI) ページ20
町の中は祭時、特有の賑わいを見せている。
辺りにはあちらこちら夜店も出ていて、Aが目を輝かせていた。
さっきから気になる店を見つける度に立ち寄ってる。
「あ、えいちゃん、アレも食べたい!」
「お前よくそんなに食えるな。見てるこっちが気持ち悪くなってきた…」
「えいちゃんも食べる?イカ焼き」
「聞けよ、人の話を!」
Aと二人で歩く夜の町は思っていた以上に楽しくて、今まで感じたことのないフワフワした気分になった。
なんだろう、この感覚は。
柄にもないような今の自分に戸惑いながら隣を見ると、Aが豪快にイカ焼きにかぶりついていたからそれでやっと現実に引き戻された。
せっかくの浴衣姿が台無しだ。
こういう奴なんだよ、こいつは…
「なに、えいちゃんも食べる?」
「じゃあ一口」
「はい」
「さんきゅ」
「あぁっ⁈ちょっと、一口がでか過ぎる‼」
「うめーな、コレ」
「あーもうこんなちょっとになっちゃったじゃん、えいちゃんのデカ口めっ」
「おいA、アレ見てみろよ」
俺達の目の前、町の一角に飾られた大きな笹の葉を指差す。
それはさまざまな願い事の書かれた沢山の短冊と共に夏の夜風に揺れていた。
「わーすごいね!あ、誰でも願い事書けるみたいだよ、私達も書いてこうか?」
「いいよ、めんどくさい」
「えーいいじゃん、せっかくなんだから書こう?」
「ガキじゃあるまいし願い事なんて…」
「いいからいいから」
「おいっ、やめろよ!」
Aに強引に腕を引っ張られながら無理矢理笹の葉の下まで連れて来られた。
長机で何人かが願い事を書いている中に俺達も紛れる。
「見ないでよ?」
「なにをいまさら言ってんだよ、それなら俺のも見んなよ?」
「見ないよ、あとでこっそり見るから」
「ふざけんなっ!」
別に改まって書くほどの願い事なんて特にはないけど、でも強いて言うなら今まで通りこうして、Aが俺の傍で笑っていますように…かな。
って、そんなこと書けるか!
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作者名:かえで | 作成日時:2019年2月27日 22時