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月の舟(side EIJI) ページ18

あれは確か、高校2年の初夏の話。
いつもと変わらないありふれた一日の終わり。
俺の家で夕飯後、Aと二人で窓辺に座り夜空を見上げていた時のことだ。
開け放たれた窓から吹き込んでくる風には、どこか夏の気配がしていた。

「今年は天の川見られるかなぁ」
「無理じゃね。梅雨時真っ只中で見れるワケねーだろ、毎年そうじゃん」
「…ほんっと、夢のない男ね」

俺を呆れ顔で一瞥したあとAはまた窓の外へ視線を移してしまった。
同じように俺も空を見上げると、そこには満天の星空が広がっている。
漆黒の闇に浮かび上がる無数の星達が、瞬きながら群れを成す。
今日は梅雨の晴れ間ってやつだ。

明日は7月7日、俗に言う七夕。
彦星と織姫が年に1度、会うことを許された日。
そして天気は曇りのち雨の予報だった。


「なんだか月が舟みたいだよね」

星空に浮かぶ三日月を指差し、Aがそんなことを言う。
確かにそれは川に浮かんだ舟のように見えなくもなかった。

「あの舟に乗って彦星と織姫、会えるといいよね」
「お前さ、」
「なに?」
「いちいち返答に困るようなこと言ってくんじゃねーよ!高校生にもなって恥ずかしい奴だな、マジ」
「えいちゃんには情緒のかけらもないんだね」
「現実主義と言え」

小さい頃ならまだしも、もう俺達もさすがに夢と現実くらい分別つく歳になった。
1年に一度しか会えないなんてのは、そもそも色々と無理があるってもんだろ。
だけどそういう関係も本気って感じがして嫌いではない、が今更Aに言える雰囲気ではなくなった。

「A、明日なんか予定あるか?」
「え、別に何もないけど」
「それなら町の七夕祭り一緒に行かねーか?」
「うん、いいよ」

いつもの調子でさりげなく、明日俺達の住む町で毎年恒例の祭りにAを誘った。
こんなことはごく当たり前なことのはずなのに何故かこの時、心臓がドキドキと高鳴っていた。
きっとこれはさっきAが七夕に引っ掛けてなんか変なこと言い出したせいだ、そうに違いない。

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作者名:かえで | 作成日時:2019年2月27日 22時

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