【文スト】空から落ちた薄倖美人３

君と未来とこの恋と。 ページ9

雲もない静かな夜。煌々と闇の中に浮かぶ淡い紅色の月明かりが横浜を照らしている。

オークション当日。

港町の廃倉庫は静かにさんざめいていた。


『聞こえますか太宰さん。』

『聞こえるよ敦くん。谷崎くん、国木田くんペアは？ 』

『はい。聞こえます。』

『問題ない。』


今回は四つのチームに別れて作戦を決行する。国木田と賢治でAと被害者の保護。谷崎と鏡花で客の確保。敦と芥川で邪魔をする異能者の討伐。そして太宰と中原で谷川。という作戦だ。

ポートマフィアの首領の森が、私達は善人じゃない。だから客を捉えたり、被害者の保護なんて事には協力しないよ。あくまでAちゃんの奪還にだけ協力する。という言葉でこの様な人選となった。元より福澤もその予定だったらしく「そんなことに期待はしていない。」という言葉が今も新しい。

乱歩や太宰の推測だと、谷川はAに危害を加えないとのことだった。
勿論根拠はない。だがその言葉に確信はあった。


『よし、感度は良好だね。』


聞こえた乱歩の声に頷く。
ちなみに乱歩は与謝野と森と福澤でオークション会場近くのバンに乗り込んでいた。監視カメラのハッキング等を軽々行い、援護するという作戦だ。

最優先は勿論A。そして次に谷川。
皆四方に別れてオークション会場を覗く。
客は全員顔が分からないように仮面を付けていた。お遊戯会場に来ているかのように浮かれ愉しそうにしている客を見渡す。今から人を競る、という人道外れた行為をするかのようには見えず、敦は込み上げる感情を噛み殺すように唇を噛む。
その時無線の入る音が聞こえた。


『会場から谷川は見える？ 』

『こちらは確認出来ていないです。』

『私の方からも確認出来ていない。どうやら会場にはまだ姿を見せていないようだね。』


ぼんやりと薄暗く明るい会場はどこが静かにさんざめいていて、その時を今か今かと待ち望んでいるようだった。
敦の隣で沈黙し集中している芥川の人間は、鋭い刃を隠し獲物の喉元を搔き切る瞬間を待つ肉食獣の如く荒々しく落ち着いた雰囲気を醸し出していた。

敦は瞳を閉じる。
Aは独りで蹲っていた敦に手を差し伸べてくれた。光を差してくれた。笑顔をくれた。初めて僕という一人の存在を認めてくれた。
だから。だから今度は僕がAさんを救いたい。貴方は、倖せになっていいんですよ。と、そう云い一緒に笑いたい。
敦はきっと来る未来に強く誓った。

皆が慕うあの子の話。→←幸せを願う。

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す