頭の中で誰かの聲がする。 ページ1
その日はAの調子が良く、珍しく自分の足で立つことが出来た。細くなっていた食も、今朝は粥を全部食べることが出来た。
固まっていた関節をグッと伸ばすと身体の至る所でポキポキと音が鳴る。少し痛いが気持ちいい。Aは「絶好調です。」と国木田に笑った。
「確かに顔色も良くなったな。」
「やっぱりそう思いますよね!
ということで私何か皆さんのお手伝いしたいんですけど、」
「ダメだ。」
「えぇー! 」
手帖とにらめっこしている国木田にダメもとで云えば、予想通りの返事に項垂れる。全く過保護だなぁ、と頰杖を付く。
致し方ない。強引だが強行突破だとAは頷く。
「国木田さん。私やっぱり何かお手伝いしたいんですけど。」
「何度云おうとダメだ。
Aは無理をするからな。」
「そんなことないです。
それにベッドの上で寝ている方が身体に悪いです。動ける時に動かないと!」
そう云えば国木田は手帖から顔を上げる。その表情は険しい。
「然し…。」と渋る国木田に「与謝野女医からは了承を得ていますよ。」と先駆けて声を発する。Aの言葉に国木田は何も云えなくなる。
もう一押ししようかな、と考えていると国木田がため息を吐いて「無理していると判断したら直ぐに休むんだぞ。」と呟いた。
ここだけの話、国木田は切りつけ魔の一件からAが少し怖いのだ。
「今人探しをしている客が来ていてな。谷崎が話を聞いているからお茶を出してきてくれないか? 」
「喜んで! 」
Aはそう云ってベッドから降りる。服装はブラウスに黒のタイトスカート。元より働く気満々の格好に国木田は舌を巻いた。
久々に医務室から出ると与謝野が吃驚した顔をして「アンタ本当に許可貰ったんだねぇ。」と云うのでAはニッコリと意味深に笑ってみた。
給湯室に向かってお茶を入れ、応接間に向かう。近づくにつれて谷崎の声と男の声が聞こえてきた。
「はい。若い女性で…。」
Aは動きを止めた。
『こっちにおいで。』
その男の声は紛れも無くこちら側に呼んだあの時の声だった。
Aは真っ白になった頭で声も掛けずに駆け出し押し入る。突然のAに驚いた谷崎達は「Aさん? 」と声を掛けた。
Aはそんな谷崎達に目もくれず、目を見開いて椅子に腰掛ける男を見た。
「貴方…。」
「……探偵さん。
探し人、見つけました。」
客の男が谷崎に云う。
その客とは以前Aと川沿いで話した男だった。
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みるく(プロフ) - この小説はすごく美しく綺麗だなと思って、とても気に入っています!!!儚く美しい世界観というかなんというのか、語彙力がないですが、ものすごくいい作品でした!読ませていただきなんども涙を流しました!素晴らしい小説を作って下さりありがとうございますm(*_ _)m (2022年3月13日 9時) (レス) @page45 id: a995b7f6e9 (このIDを非表示/違反報告)
海姫(プロフ) - 焔蘭さん» コメントありがとうございます。タイトルは夢主が文ストの世界に来た時、ビルから飛び降り落ちたので《空から落ちた》と入れて、幸せとは遠い子が人との繋がりで幸せになっていくので《薄倖美人》としています!後は夢主の異能が《空が分裂する》だというのもあります! (2019年1月13日 19時) (レス) id: fe69d25c5e (このIDを非表示/違反報告)
焔蘭 - 初めましてで失礼します!タイトルの意味って何かあるんですか?そしてこれからも頑張ってください! (2019年1月13日 16時) (レス) id: 98975d3783 (このIDを非表示/違反報告)
海姫(プロフ) - 乱歩ルート期待の敦くんの妹さん» コメントありがとうございます!乱歩さん…。乱歩の夢希望ですか? 良かったら書きますので聞きますよ! (2018年5月29日 12時) (レス) id: fe69d25c5e (このIDを非表示/違反報告)
乱歩ルート期待の敦くんの妹 - 乱歩さん乱歩さん乱歩さん(ぶつぶつ (2018年5月29日 0時) (レス) id: 4a14a6da47 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:海姫 | 作成日時:2017年8月6日 0時