story81 仲直り ページ6
陽毬side
面会時間外にやってきた謎の人物。気配だけではそれが誰か分からないから寝たフリを続けて相手の出方を伺うことにした。何せ先日誘拐されたばかりだ。相手がなんのアリスを使ってきてもいいように、星なしを見て使えるようになった無効化を発動させた。
そいつは気配を隠そうともせずに真っ直ぐ僕が寝ているベッドまで近寄ってきた。そしてベッド脇に置いてあった椅子に腰掛ける。椅子がキィと不快な音を立てて軋んだ。
あまりにも無防備で敵意も感じられない気配で、なんとなく隣に座る人物の顔が浮かんだ。
「……陽毬ちゃん、ごめんね。君が無茶していたのは僕のためだったんだろ?それなのにあんなに怒鳴っちゃって。
だから呆れてあんなこと言ったんでしょ……?」
それは予想通りB組の担任であり、学園の大人の中で信頼を寄せている人物であり、先日僕の言葉で傷付けてしまった人、ナルの声だった。
ナルは僕が寝ていると思っているのか本当に小さな声で、自分を責め始めた。まるで神に懺悔をしているみたいだ。
「……それは違うよ、ナル。」
「っ、陽毬ちゃん! 起きてたの?」
あまりにもナルが自分を責めるもんだから、耐えられなくなって声をかけた。毛布を退けてナルの方へ身体を向けると、ナルは目を丸く見開いた。
「起きてちゃ不味かった?……もしかして夜這いするつもりだった?」
「っ、ちが……そんなんじゃなくて!」
「冗談だよ。」
僕の言葉に彼は目を白黒させて手を振ったが自分が揶揄われていると分かると、苦笑いして頬を掻いた。
過程はどうあれナルの辛気臭い顔が消えたからよしとしよう。
「あのときナルが星なしを庇わなくても僕はきっと庇ったし、無茶するなって言われても目の前に大切な人がいるなら僕はいくらでも無茶するよ。」
ナルは僕の言葉を何も言わずに聞いていた。そして僕の目を真っ直ぐ見ると、そっか、と笑った。ナルは睡眠の邪魔してごめん、と言って背を向けた。彼の顔は自分を許せていない様で。
「ナル、僕の方こそごめんね。……本当はあのとき嫉妬してたんだ。ナルがあまりにも星なしのこと構うもんだから。」
だから病室を出て行こうとする彼に、もう少しだけ付け足した。
「ナルの一番は僕じゃなきゃ嫌なの。」
「陽毬ちゃ、」
「なーんてね。ナル、おやすみなさい。」
鳩が豆鉄砲をくらったような顔をするナルを部屋から押し出す。
雲から顔を覗かせた満月が、僕の赤く染まった頬を照らした。
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えるふぃ(プロフ) - 名無し67465号さん» 名無し67465号さん、コメントありがとうございます!反応がない中、書き続けるより、こうしてコメントしてくださる方がいるだけで続きを書く気力が湧いてきます!今のところ、3日に1話ペースで書けているので、この調子を保てるように頑張ります(*´ω`*) (6月14日 22時) (レス) id: 2cfa1564f2 (このIDを非表示/違反報告)
名無し67465号(プロフ) - すごく大好きなお話です!!続編待ってます! (6月14日 21時) (レス) @page50 id: 4d7900bf24 (このIDを非表示/違反報告)
えるふぃ(プロフ) - 眞白さん» なるほど、その回想で罰則印が付いていなかったのならこの頃の翼にもありませんね…。ご指摘いただいた部分、修正しておきました。ありがとうございます(*´ω`*) (2020年9月29日 22時) (レス) id: 2cfa1564f2 (このIDを非表示/違反報告)
眞白 - えるふぃさん» コメ返ありがとうございます!Zの時の翼の回想(7巻の39話)だと、中等部の制服を着た翼と要がいるので、その辺りかな?と思います!それがいつの時期なのかは詳しくは描かれていませんでした… (2020年9月29日 21時) (レス) id: 1107d34cbb (このIDを非表示/違反報告)
えるふぃ(プロフ) - 眞白さん» 眞白さん、読んでくださりありがとうございます!翼の年齢のことすっかり抜け落ちてました。ご指摘すごく助かります。罰則印のことなんですが、勉強不足で申し訳ないのですが、いつごろ着いたかどこで分かるか教えていただけませんか?自分では見つけきれませんでした… (2020年9月29日 21時) (レス) id: 2cfa1564f2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:えるふぃ | 作成日時:2013年12月2日 10時