56. 日常 -side Yellow- ページ7
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それからすぐAちゃんが倒れる前の生活に戻った。
Aちゃんはパン屋さんと病院の他、買い物やお散歩に行っている。
アルバイトはもう大分慣れたみたい。
リハビリは順調でもうそろそろ終わりそう。
カウンセリングは効果があるのかないのか分からないけど、話を聞いてもらえるのは落ち着くみたい。
病院には知り合いの患者さんも何人かいて、おしゃべりを楽しんでるらしい。
俺も今まで通り、普段の仕事に追加してツアーに向けた準備もあって忙しくしている。
メンバーの士気も高まっていて頑張りたいって強く思う。
習慣で変わったことは、夢遊病について話したから寝るタイミングが合えば手を繋いで"おやすみ"って言い合ってから寝るようになったことくらい。
あと、もう一つ変わったのは気持ちのこと。
この幸せな日々が"期間限定"だって実感が湧いた。
今まで頭では分かっていても実感はなかったんだと気づいた。
Aちゃんがアルバイト先で倒れたあの日、
"Aちゃんが倒れました。"と言った藤間さん電話越しの声、"記憶が戻るかもしれません。"と言った伊藤さんの声と表情がフラッシュバックする。
真っ白な病院のベッドで眠るAちゃんが頭に浮かぶ。
Aちゃんが記憶を取り戻したら、俺は。
Aちゃんがうちから出て行ったら、俺は……。
眠るAちゃんを前に色んなことを考えた。
手足が冷えて、心がスースーして、なんだか息苦しくて、不安でいっぱいになった。
あの時はじめてAちゃんとの別れがすごくリアルに感じた。
きっとあんな風に別れは突然来るんだと思う。
それが明日なのか明後日なのか、一ヶ月後なのか一年後なのかはわからない。
でも終わりは絶対くるから、過ごしている今にちゃんと向き合って、Aちゃんと一緒に過ごせる時間を大切にしたい。
無駄にしないって心に誓った。
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作者名:鞍月すみれ | 作成日時:2023年8月8日 18時