53. 君のいない部屋 -side Yellow- ページ4
-side Yellow-
結局、あれから一晩中Aちゃんの手を握りしめて寝てしまった。
スマホのアラームで目覚めて時間を確認すると、仕事前に家に帰って準備をするにはもう病院を出なきゃいけない時間だった。
ゆっくり呼吸をしてすやすや眠るAちゃん。
柔らかい朝日で照らされているその顔は昨日よりずっと健康的に見えた。
「Aちゃん。」
起こさないように小声で名前を呼んだ。
握っていた手を離し、壊れ物を扱うように優しく頭を撫でる。
Aちゃんの柔らかい髪がサラサラと指の間を流れる。
「行ってきます。」
眠ってるAちゃんにいつも通り声をかけて、病室を後にした。
ガチャ
家に着いてドアを開ける。
お出迎えがないのは久々だった。
いつも小走りで"おかえり"って出迎えてくれるAちゃんの様子を思い出す。
……寂しい。
部屋に入って仕事の準備をするけど、Aちゃんがいないだけで部屋が冷たく感じた。
Aちゃんがいる生活は当たり前になっていて、一人で暮らしていたことが遠い昔のように感じる。
長年の習慣とは恐ろしいもので、こんなコンディションでも番組の収録が始まってしまえば集中できて、ほとんどいつも通りにできたと思う。
休憩中、スマホを見ると遠藤からとメッセージが入っていた。
遠藤Aちゃんが目を覚ました。
記憶は戻らなかった。
記憶が戻らなかったことにもほっとした自分に腹が立った。
夕方、Aちゃんを病院まで迎えに行って一緒に帰る。
なんだか初めて二人で家に帰った時を思い出した。
あの時と同じ洋楽が小さく流れる車内では沈黙も居心地がいい。
助手席に座るAちゃんは、窓を流れる景色はぼんやりと眺めていた。
『優吾くん。』
赤信号で止まったタイミングでAちゃんに呼ばれる。
「ん?」
助手席を見ると、Aちゃんと目が合った。
『……初めて迎えに来てくれた時、思い出すなって。』
あ、青になったよって言われて前を見る。
「あの時のAちゃん、ぎこちなかったよね。」
ゆっくりアクセルを踏む。
『だってなんか変に緊張してたから。』
当時の様子を思い出して笑うと、Aちゃんも思い出したのか笑い声が聞こえてきた。
その後も、家に着くまで思い出話でずっと盛り上がった。
振り返る話題が尽きないくらい思い出が増えていたことが嬉しかった。
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作者名:鞍月すみれ | 作成日時:2023年8月8日 18時