エンゼルランプ vol.2 (ページ30)

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79. 温泉 -side Yellow- ページ30

-side Yellow-

寒さに目が覚めた。
あのままソファで眠っちゃったんだ。
目覚めてもAちゃんはいなくて、冷たい部屋に身震いをする。

前にソファでうたた寝しちゃった時のことを思い出した。
あの時は昼寝からふと目が覚めて、ブランケットの温かさを感じた。

薄目を開けると、すぐそばでAちゃんが本を読んでいるのが見える。
小気味よく捲られるページの音が心地よくて、目を閉じて耳を澄ます。

『優吾くん、起きてるでしょ？』

Aちゃんに声をかけられた。

「バレた？」

『ちょっとにやついてた。』

確かにいい気分だったけど、表情に出てるとは思わなくて驚いた。

「まじ？あ、ブランケットありがとう。」

お礼を言うと、Aちゃんが優しく微笑んだ。

あの時との落差に虚しくなる。
こんなにも至る所にAちゃんの痕跡があるのに、本人だけがいない。
休暇はあと2日残っているけど、この部屋に一人でいるのが耐えられなくて、外に出ることにした。

ぐちゃぐちゃの気持ちのまま軽く準備をする。

行き先に選んだのは、何度か来たことがある温泉旅館。
無心で運転してお昼過ぎには旅館に着いた。

平日の昼下がり、中途半端な時間だからか露天風呂は貸切状態だった。
体を流して温泉に肩まで浸かる。
渓谷のせせらぎと木の葉を揺らす風の音、お湯の流れる音だけが響いている。

全身がじんわり温められる感覚に、自分の体が冷えていたことを気付かされた。
ふーっと長く息を吐いて、久しぶりに息ができたような気がした。
ただただぼーっと湯に浸かる。

そういえばAちゃんと温泉に来たことなかったな。

そう考えが浮かんで、すぐにAちゃんはもういないことを思い出した。

ぽろっと涙が落ちる。

そのまま旅館に一泊して、何回か温泉に浸かって、少しだけご飯も食べた。

帰ってきて自宅のドアの前に立つ。
自分の家のドアを開けるだけなのに、緊張するのは初めてだった。
軽く気合を入れてドアを開ける。

　ガチャッ

Aちゃんがいることを心のどこかで期待して、目の前の真っ暗な部屋にがっかりした。

明日はやっと仕事だ。

手持ち無沙汰なままじゃきっと考え続けてしまうから、集中できる仕事があることにほっとした。
こんなに休暇の終わりが待ち遠しかったことはない。

ベッドに入って目を瞑るけど、全然寝られない。
眠れたのは空が少し明るくなってからだった。