77. 突然の別れ -side Yellow- ページ28
-side Yellow-
収録が終わると外は暗くなっていた。
マネージャーさんに送ってもらい自宅に着く。
「ただいま。」
と言いながらいつも通りドアを開けるけど、部屋は薄暗い。
いつもならAちゃんがパタパタと小走りで玄関まで迎えにきてくれて、おかえりって微笑んで言ってくれるはずなのに。
「Aちゃん?いる?」
声をかけるけど、返答はない。
もしかして、体調悪いとか?
リビングまで来て電気を点けるけど、誰もいない。
続けてAちゃんの部屋を見るけど、空っぽだ。
ただならぬ雰囲気を感じて胸がざわつく。
そのまま洗面所やお風呂、キッチン、トイレ、クローゼットまで家中を探すけどAちゃんの気配はない。
出かけてるってこと?
はっと気づいてスマホを見た。
出かける時いつもなら連絡を入れてくれているはずなのに、Aちゃんからのメッセージは入っていなかった。
高地優吾📞
Aちゃんに電話をかけるけど、繋がらない。
高地優吾Aちゃん、出かけてるの?
メッセージを送るけど、既読にならない。
こんなこと今まで一度もなくて、胸がざわざわして落ち着かない。
ぎゅっとスマホを握りしめたまま、既読のつかないメッセージをぼーっと眺めた。
ピコンッ
呆然と立ち尽くす俺を現実に連れ戻したのは、スマホの通知音だった。
どれくらいぼーっとしていたのかスマホの画面は暗くなっている。
Aちゃんからの連絡だと思って、急いでLINEを開く。
そこには、Aちゃんではなく遠藤からメッセージが入っていた。
遠藤Aちゃんの記憶が戻った。
ただ、代わりに記憶喪失だったこの数ヶ月の記憶がなくなった。
だから、元々の家に帰したよ。
状況が飲み込めなかった。
遠藤からのメッセージを一言一言ゆっくり呟きながら読んで、やっと理解できた。
Aちゃんとの別れの時が来たのだ。
一度Aちゃんが倒れてこの日々の終わりを実感してから、終わりがやってくることは分かっていた。
この日々がかけがえのないものだと感じていた。
だから大切にしたいと思って過ごしてきた。
分かっていた、つもりだった。
ただそれは、想像以上に"突然の別れ"だった。
78. 空っぽの部屋 -side Yellow-→←76. 隙間 -side Yellow-
234人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:鞍月すみれ | 作成日時:2023年8月8日 18時